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日本酒の夏酒を燗したら美味しくなるのか?

夏酒、良いですね。ボトルの色合いやラベルデザインに涼しさがあって、味わいも清涼感や爽やかさを表現した酸味の味わい。

まさしく冷やして飲みたくなる、そんな日本酒です。

ただ、「キンキンに冷やして飲んで下さい」が蔵元さんの狙う味わいだと理解するものの、

そういった「清涼感」を前面に出すために味わいの厚さ・旨みといった要素は意図的に抑制されているものが多いかなという印象です。

今回は、酸味が味わいのキーとなる夏酒を燗したらどうなるのか、具体的には、冷やして飲んだ時にあまり表に出てこない味わいの厚さは、温めることで表現されるのか、それを確かめるのが一つ。

もう一つは、夏酒を燗で飲む可能性を確かめたいという思い。

夏酒を一杯目は冷やして飲んで、冷房で身体が冷えてきた頃にシメを燗で、っていう飲み方は全然ありだと思うし、「飲用温度帯が広い」という日本酒の特徴を象徴的に示せたら素敵かな、と。

1. 銘柄選定

和歌山県海南市『平和酒造』さんの造られる『紀土』。大好きな銘柄の一つ。
一口飲むだけで丁寧な造りを確信させる、飲み口の柔らかさと優しさが特徴のお酒。その夏酒バージョンです。

まずはキンキンに冷やしてワイングラスで飲んだ味わいは以下の通り。

入口は控えめながら、奥の方に清涼感を感じさせるさわやかな酸味の香り。
口に含むと、優しい飲み口に乗って柔らかな酸味が控えめな旨味となる。柔らかくも綺麗で爽やかな酸味がわずかな余韻を残しながら優しく軽快にキレていく。
紀土特有の飲み口の柔らかさ、優しさはそのままに、優しく柔らかくも軽快で爽やかな酸味でキレていく様子はまさしく「夏」。
この表現力はすごい。

素直に美味しいです。

冷やして飲む上記の爽やかさ溢れる味わいこそ、蔵元さんの意図する夏酒の味わいだと思います。

ちなみに『紀土』の春酒を頂いた際は、同じく柔らかく優しい飲み口の中に酸味の膨らみ感があり、まさに「春」でした。

特徴的な優しさのある酸味でここまで季節を表現できるのは、すごい。

そして、いつもぼくが燗を試してみたいと思うお酒の一つは、こういった「酸味が特徴のお酒」。

では、燗してみます。

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2. 用いた酒器等の道具と燗付け方法

1) 道具
・8勺サイズの利き猪口(磁器)
・ちろり(アルミ製)
・温度計:TANITAの料理用デジタル温度計

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2)燗付け方法

ちろりに入れたお酒を鍋で湯煎。温度を上げながら5℃刻みで、立ち上がる香りを確かめて引き上げの温度帯を探りました。

ボウルに張った氷水で急冷し、その後に再度湯煎で温度を上げるという方法を採用してます。

急冷直前の酒の温度は約43℃。これを30℃程度まで、ちろりごと氷水で冷やして、その後再度43℃近くまで上げました。

3. 利き酒結果

燗付けは上記の通り、温度を上げながら5℃刻みで香りを確かめてます。

30℃〜35℃くらいから、主体はあくまで酸味ながら甘い香りをほのかに感じる。
35℃で一旦利き酒するも、酸味の輪郭が強く、お米の甘みが前に出ておらずバランスしていない。

40℃を超えたあたりから徐々に出てくるアルコールの香りに乗るように、お米の膨らみのある甘い香りを感じる。43℃でもう一度利き酒。

酸味と甘さ、アルコール感のバランスが整う。酸味の柔らかさにお米の甘さが加わり、アルコールの香りが良い具合のボリューム感となって、一体感が出ている。冷やした時よりも味わいにやや厚さも感じる。

冷やして飲むのとは別の味わいとして美味しい

4.総評

1回目50℃近くまで上げた時は、酸味の柔らかさが後退してドライな感じとなり、優しく柔らかな酸味が特徴のこのお酒を表現しているとは思えず、もう一度上記の温度で試しています。

43℃あたりが燗をするのにベストな温度だと思いますが、燗で味わいのバランスが整う温度帯はかなり限定的だと感じました。

冷やして飲むのとどちらが美味しいかというと、これはもう素直に冷やした方が美味しいです。

ただ、冒頭に記載の通り、日本酒の最大の特徴の一つは飲用温度帯の広さにあるわけで、

・一杯目は冷やして
・冷房で身体が冷えてきた頃にシメを燗で

という飲み方は、同じお酒でも温度によって味わいが相当変化するという、日本酒の面白さ・ポテンシャルを端的に示す飲み方になるかと思います。

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