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おいしい温度。燗の利き酒Vol.2『紀土/純米吟醸』

日本酒は、自分の魅力と特性を最高の形で表現してくれる温度を求めている。

「同じ日本酒で、燗の温度を変えると味わいがどれほど変化するか」を試す『おいしい温度。燗の利き酒』シリーズの第2段。

このシリーズを始めたきっかけは、別の記事で書いたとおり、『赤武』の生酒を温めて飲んだら予想以上に美味しかったこと。燗付けの技術、知識面ともに素人同然の「燗」の世界にしっかり足を踏み入れてみようと思いました。

1.  銘柄選定

和歌山県海南市にある『平和酒造』さんの醸されるお酒。

どの造りを頂いても、「水の綺麗さ」と口あたりの「柔らかさ」「優しさ」を表現してくれる、大好きな銘柄の一つです。

こういう事態とあって初めてオンラインで日本酒を購入したうちの1本が、この『紀土/純米吟醸』。先日冷やして頂いた際、飲み口が柔らかく綺麗ながらもお米の旨みと柔らかい酸味をしっかりと感じ取れる味わいから、燗にも向くはずと思い、選定させて頂きました。

裏ラベルの写真です。(造りは、火入れの純米吟醸酒)


2.  用いた酒器等備品、及び燗付け方法

1) 酒器
・8勺サイズの利き猪口(磁器)
・2合サイズの徳利(磁器)

2) 温度計
TANITAの料理用デジタル温度計(計測温度帯:-50℃~250℃)

3) 燗付け方法

・鍋にお湯を沸かし、沸騰寸前の90℃超で火を止める。

・徳利にお酒を注ぎ、徳利ごと鍋の中へ浸け湯煎。

・デジタル温度計を徳利内のお酒に浸け、温度が58℃になったところで鍋から徳利を引上げ、利き猪口に注いで利き酒。

・利き猪口は予めお湯を張って事前に温めておく。注いだ際の温度低下を防ぐため。

・また、以下の温度別利き酒では、「55℃から始めて5℃刻みで温度を自然に下げていき30℃まで試す」というのを2回やっています。この2回目の利き酒では、前回シリーズ初回でご紹介した『龍力』の蔵元 本田様より教えて頂いた、「一度飛びきり燗(60℃付近)まで上げて一度冷まし、再度温度を上げるとまた違った味わいになる」との貴重なアドバイスに従ってみました。

3.  利き酒結果 

以下は、上記の通り湯煎で燗付けした日本酒を55℃から順番に5℃刻みで自然に冷ましていき、下は30℃までの温度帯で利き酒した結果。

前回は60℃から始めたのですが、個人的には口に含む際のアルコール感が強すぎて味わいを確かめに行けないと感じ、今回は55℃スタートにしています。

55℃=とびきり燗 結果:◎または○
入口で少しアルコール感あり。
口に含むとそのアルコール感に重なるように柔らかいお米の旨みと酸味がやってくる。

この、少しボリュームのあるアルコール感と柔らかさの融合は意外にもバランスが良い。キレも柔らかく優しい。

50℃=熱燗 結果:◎
入口のアルコール感が薄れ、55℃よりも口に含みやすくなる。55℃と同じ柔らかいお米の旨みに乗ってくる酸味が、少し表に出てくる。

加えて、甘みも感じるようになる。美味しい。

苦味はほぼ感じず、優しい。飲み口が柔らかい。

45℃=上燗 結果:◎
口に含んだ時に舌の上で柔らかく広がるお米の旨みが嬉しい。50℃に比べてさらに酸味が表に出てくる。

キレにも酸味を感じるようになる。この酸味感は、日常の食事に自然と合いそう。美味しい。

40℃=ぬる燗 結果:○
口に含んだ時の味わいの融合感が、全体として飲み口の柔らかさを舌の上の膨らみでもって表現してくれる。

後半の酸味感に苦味が少し重なるようになる。この後半から余韻までの酸味と苦味はお酒単独よりも、食事と合う味わいだと思う。

35℃=人肌燗 結果:○
40℃の柔らかさをさらに静かに感じるようになる。温度の差がそうさせるのかも知れない。
透明感のある味わいといい、温度的な飲みやすさといい、スイスイと何杯でも飲めそうな、良い意味でクセのない味わい。

後味で酸味と苦味が少し尾を引く感じは個人的には好み。

30℃=日向燗 結果:△
飲み口のトーンは40℃とほぼ同じ。ただ、味わい全体の輪郭というかバランス感が少しボヤけてしまう感じがある。

後味の酸味と苦味の余韻感は悪くない。


4.  総評 

今年に入ってからは、季節柄もあり「生酒を冷やして飲む」という機会ばかりだったのですが、今回の『紀土/純米吟醸』のように冷やしても燗でも、何をやっても美味しいお酒というのは存在するんだと、改めて実感しました。

55℃=とびきり燗でのアルコール感はボリュームがあって個人的には好きなのですが、どの温度帯が一番かとなると、柔らかい旨みと酸味に加えてお米の甘みを感じ取れた50℃=熱燗近辺が一番美味しかったと思います。

『龍力』の蔵元 本田様に教えて頂いた再加熱法でやってみると、より一層味わいがまろやかに、柔らかく感じました。

上記の利き酒結果を読み返してみると、冷やして飲んだときに感じた「飲み口の柔らかさと優しさ」を、燗の温かい温度帯でもきちんと感じ取れるということ。これはすごいと思います。

丁寧に造られたお酒は温度帯を問わずに楽しめる。

そんな日本酒の原点を思い出させてくれた、素晴らしいお酒でした。


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