日本の保護者が怒り出すようなフィンランドの低い学力を検証する
「フィンランド政府がフィンランド教育の失敗を公式に認めました」という記事の中で、国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)におけるフィンランドの成績は "日本の保護者だったら怒り出すほどレベルが低い"、と書きましたが、今回はそのTIMSS2019(数学8学年)の結果を見ていきたいと思います。
TIMSSでは、各設問に対して各国の正答率が出ています。つまり、どの単元ができて、どの単元ができない、という国ごとの傾向を把握することができるわけですね。
もちろん自分で問題を解くことも可能です(答えは既に書いてありますが)。中学2年生ぐらいを対象に作られているテストなので、高校生以上の方なら難しいということはないと思います。各自ご覧になって確認してみてください。
TIMSS2019(数学8学年):各国平均スコア
まず全体的な結果を見てみます。
以下が、TIMSS2019(数学8学年)の各国平均スコアです。東アジア勢がぶっちぎりでトップグループを形成していることが判ります。フィンランドの平均スコアは509点で、2番手グループか、見方によっては3番手グループに居るといえるでしょう。
他にも、4学年の数学、理科、8学年の理科の結果もありますので、興味のある方はリンクをご覧ください。それでは出題例とその正答率を見ていきましょう。
TIMSS2019(数学8学年):出題例と正答率
1 数(Number)の問題(分数)
「縦、横、対角線の数を足すと値が1となるような X を求めよ」
この問題は「数(Number)」に分類されていますが、分数の計算を理解していないとできない問題です。
これはかなり難しかったようで、正答率はトップの台湾でも53%、国際平均も18%とかなり低いです。
フィンランドの正答率は13%と国際平均を下回りました。フィンランドは2011年のTIMSSでも分数の計算問題の正答率が16%だった(このときの国際平均は37.1%)ので、ほぼ変化してないと言ってもいいでしょう。分数はフィンランドにとって鬼門です。
「なぜ低学力のフィンランドが1位になったのか?」というブログ記事でも書きましたが、分数は理解してないと後の学習や生活に大きく影響するためとりわけ重要だと思います。実際、フィンランドでは、商品の値引き額やローンの利子が計算できない子供が増えるなど、生活上の問題が指摘されています。
また、分数は教える側の力量も試される単元です。これを理解させることができない教員は質が高いとは言えません。
2 代数の問題
「三角形ABCの周囲は21cmである。xの値を求めよ」
これは方程式(代数)の問題ですが、図形の問題と勘違いしやすいですね。フィンランドの生徒は分数だけでなく図形も弱いので、図形の問題だと思い込んでしまった生徒は苦手意識が出てしまったのかもしれません。
3 図形の問題
「長方形の紙片が一か所だけ図のように折ってある。x の値を求めよ」
これは図形の問題です。そんなに難しいとも思えないのですが、正答率は5位の香港と6位のロシアとの間に20ポイント以上の大きなギャップができています。フィンランドも平均以下に沈んでいます。
4 データと確率の問題
「400mリレーの4選手は、それぞれ自分の区間を12秒、13秒、11秒、13秒で走る。次の試合までに、4人のうち2人がタイムを2秒間短縮し、あとの2人は変化がなかったとすると、チームとして平均タイムは何秒良くなったか?」
平均タイムがどれだけ良くなったか?、という設問なので、短縮された秒数を合計して人数で割れば答えはでます。チーム全体で何秒改善したか?という問題と勘違いすると、「4秒」と答えてしまいますね。
上記4問は、すべてAdvancedレベルの問題だったためかフィンランドはかなり分が悪いです。最後に、フィンランドの正答率がトップになっている問題が Intermediateレベルにありましたので、それを載せておきます。
5 数(Number)の問題
「木曜日のX市の最低気温は6℃で、Y市の最低気温は-3℃でした。両市の最低気温の差は何度だったでしょう?」
この問題ではフィンランドの正答率がトップになりました。ただ、フィンランドががんばったということよりも、シンガポールや台湾、日本などの正答率がなぜ低かったのかとても気になります。何か理由があるのでしょうか?
ダメ教育を称賛する "国際世論"という雑音
以上、TIMSS2019(数学8学年)の設問例と各国の正答率を見ていただきました。
子供がこのような答案、つまり、 "フィンランドのような答案" を持って帰ってきたら、親御さんはどう思うでしょう?
私は、怒り出す人がいてもおかしくないと思います。怒らないまでも、「ちょっと教科書持って居間に来なさい」とやおら子供に説教を始めるお父さんや、「やっぱり塾に行かせなきゃダメかしら・・」と顔を曇らすお母さんの姿は想像に難くありません。学校の先生だってこんな答案を褒めたりしないでしょう。フィンランド政府が過去20年の教育の失敗を認めたのも頷けます。というより、"やっと認めたか"、という感じですね。
しかしながら、このレベルの学力の国を、国際機関が "世界一" に仕立て上げ、教育学者やメディアが "教育大国" とか "ミラクル" などと口を極めて美化し続けたのも事実です。一体何が起こっていたのでしょうか?
ひとつ参考になる事例として、日本のゆとり教育が国際世論に称賛されかかった "事件" を紹介します。
上記ブログで紹介した NY Timesの記事と記事内で紹介されている書籍は、幸いすぐに批判されたため、日本には波及せず、被害は出ませんでした。しかし、フィンランドは、現実を直視するのに20年もかかってしまいました。国際世論や国際ランキングという "雑音" に惑わされないことがいかに大切なことかよくわかりますね。