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読書日記『あなたを奪うの。』(窪美澄ほか,2017)
『きみのために棘を生やすの』(2014年)を改題、文庫化したもの。ジュンク堂で表紙に一目惚れして、題名に二目惚れして、「窪美澄」「宮木あや子」なら面白いはず!と購入した。5人の女性作家が略奪愛をテーマに書く短編集。
雰囲気が一番伝わる気がするので、作品の最後の方で好きな文章だけ記録しておく。私の感想は邪魔になってしまう。
朧月夜のスーヴェニア 窪美澄
戦争が始まれば、この子も身を焦がすような恋をするのかしら。(p46)
夏のうらはら 千早茜
でも、好きなだけ憎めばいい。罵ればいい。泣けばいい。
それで生きていけるなら。
奪ったり、奪われたり。絹子とは、関わる深さだけそれを何度も繰り返していく気がした。(p85)
かわいいごっこ 綾瀬まる
この世で、ごっこ遊びを超えて人と結びつくのは、とても難しいことなのかもしれない。少なくとも、私の分の奇跡はどこにも用意されていないのかもしれない。(p126)
よく晴れた、美しい春の休日だ。ケージだけでなく、人間の洗濯物も洗って、干してしまおうか。そんなことを思って、畳から腰を上げた。(p127)
それからのこと 花房観音
やはり私が欲しいのは、これなのです。
たとえ一瞬のことにすぎないとわかっていても、私は求めずにはいられません。
私は奪われることでしか、愛された気がしないのですから。(p173)
蛇瓜とルチル 宮木あや子
彼の身体に金色の亀裂が入るのはいつだろう、と画面を見ながら思う。そのときが来たら、砕け落ちるか、かたちを保ったまま根から腐ってゆくか。そのどちらも私は望まない。(p213-214)
読了日:2022/10/9