㉑[介護ライブレポート]介護現場の現状
遠方の母に介護が必要になったときに私が調べたのは、介護の「制度」「サービス」そして「介護施設の種類」でした。
介護保険制度の現状については、正直、必要性を感じませんでした。
これから飛び込む介護現場はどのようになっているかまでは、調べる人は少ないのではないでしょうか。
しかし、現場はなかなか大変なことになっており、現状を知っておくことは介護の計画を練る時や家族で話し合うときに役立つと思います。
日本では高齢化(高齢者の人口増加)の進行で、介護保険の利用者、介護費用、保険料すべてが介護保険の始まった2000年から上がり続けています。
これに対して、国は介護保険制度の維持のために、給付の抑制を進めています。
つまり、保険料(収入)よりも給付(支出)が多くなっている状態なのです。
給付の抑制とは、乱暴な言い方をすると「なるべく介護保険を使いにくくする」ことです。
具体的には、これまでと同じような介護保険サービスを受けることができなくなったり、サービスを受ける要件が厳しくなったりします。
これまでの介護保険の給付抑制について、ものすごく大まかにまとめてみます。
2000年:介護保険スタート
2005年:介護施設の居住費・食費が自己負担になる。
2006年:要支援の人の訪問介護は時間単位の従量制から、月単位の定額制
になる。
2012年:生活援助の1回あたりの提供時間が15分短縮され、45分が基本とな
り、介護報酬が引き下げられる。
2015年:要支援の人への訪問介護とデイサービスが給付対象から外れる。
特別養護老人ホームへの入居は原則要介護3以上になる。
「一定以上の所得」がある人の利用料が2割になる。
2018年:「特に所得の高い層」の利用料が3割になる。
※2015年の補足
国は要支援の生活援助を含む訪問介護とデイサービスを保険給付から外し市区町村の事業に移しました。
これにより、このサービスについては全国一律の同じ水準のサービスを受けることができなくなりました。
地方自治体の財政力によって差がでるからです。
同居の家族がいる場合には、生活援助を認めない自治体もあります。
介護度が軽度の人向けの車いす、電動ベッドなどの福祉用具の貸与、住宅改修費なども縮小されています。
このように、介護保険のサービスや援助は質・量ともに抑制の方向で動いています。
介護保険制度改正の検討では、要介護1と2の人への生活援助を給付から外す案が出ています。
さすがにこの案は批判が噴出して見送られましたが、介護保険制度の存続がそれだけ厳しい状態であることは覚えておいた方がよいと思います。
東京商工リサーチによると、2019年の介護サービス事業者の倒産件数(負債額1000万以上)は111件。これは、過去最高の2017年と同じ高水準の数字です。
もともと「介護」は離職率の高い職種であり、3年で7割の人が入れ替わると言われています。
慢性のヒト不足の状態に加えて、制度がどんどん変化していき介護事業の経営を圧迫していきます。
また、一部の施設で起きた事件や不祥事により、規則が細かく厳しくなっていき、それにつれて働く職員の負担や仕事も増えていきます。
最近では、コロナの影響で注意するべき職務も増え、精神的にも肉体的にも厳しくなっているでしょう。
介護職員は2019年の時点で211万人ですが、団塊の世代が75歳以上になる2025年にはさらに32万人以上必要になると言われています。
さきほど、介護は離職率が高い職種と書きましたが、その原因のひとつに賃金が低いことが挙げられています。
介護職の平均年収は約340万円、平均月収は約24万円。全産業平均は月収約30.6万円です。
出典:厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」(企業規模計10人以上)
介護で働く人たちは、賃金は(他の産業に比べて)低く、仕事内容は厳しく、施設によっては人手不足の中、働いてくださっているのです。
介護制度の維持に加えて、現場の状況もまた厳しいことも、私にとっては大切な勉強になりました。
義母のお世話になっている施設の方へも、自然と頭が下がります。
介護保険制度は、3年に1度見直されます。
状況が刻々と変化していく中で、最適な制度に内容を変更するためです。
先にご紹介した給付の変更やサービス内容の変化は、この見直し-「介護保険制度の改正」と言われます-によって知ることができます。
直近の改正は2021年でしたので、次回は2024年になります。
この改正内容は、自分のような介護の素人にはなかなかわかりにくいのですが、勉強しておくべきだと思います。
これまでと同じようにサービスが受けられない、自己負担額が大きくなるなどの影響を知るためです。
改正された点が、現在の要介護のサービス内容に影響する場合、ケアマネさんから介護プランの変更などの相談や連絡があると思いますが、改正内容を知っていれば理解もスムーズになります。リカバリープランも考えることができるかもしれませんね。
ご家族の介護の計画を確認するためにも、オススメします。
たとえば、「特別養護老人ホーム」(以下、特養)。
経済的負担の少ない介護施設は、「サービス付高齢者向け住宅」「ケアハウス(軽費老人ホーム)」「特別養護老人ホーム」(特養)などが挙げられます。
その中で、入所希望者の要介護度が高い場合は、特養を第一考える方が多いと思います。
厚生労働省で2014年3月に行った集計によると、全国の特養の待機者は52万2000人。
2015年4月に施行された介護保険法の改正により、特養への新規入所が、原則として「要介護3以上」に限定されることになりました。要介護1・2の待機者は35%程度を占めますので、約18万人は現在の待機者数より外れます。つまり、待機者は、現在の対象に補正(要介護3以上)すると約34万2000人になります。
2019年4月1日の発表では、待機者は約29万人になっており、2014年よりもかなり改善されています。
ところが、介護施設の建設費用の4分の3をまかなっていた国の補助金が2005年に廃止されたことから、地方自治体の負担も重くなっており、新しい施設の建設は難しくなっています。
2015年の介護報酬改定においては、特養の介護報酬は5%以上も減少しました。
さらに、介護療養型医療施設(介護療養病床)の全廃、医療保険型療養病床(医療療養病床)の削減により、特養への移行希望者が増えていると言われています。
このような現状を知っていれば、少しでも対策を考えることができます。
現在の介護のために準備できる費用を計算し、特養以外の介護施設を選んだ場合をシュミレーションすれば、選択肢が広がるかもしれません。
特養の入所要件を満たしている場合なら、特養の順番待ちに時間的な余裕をもって早めに申し込むなどを考えてもいいかもしれません。
(まずは、入所可能な特養の待機者を調べるのが先ですが)
計画を練る時に、「現状を把握すること」は何より大切だと思います。
以上
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