㉗[介護ライブレポート]申請主義
2021年8月 愛知県内で悲惨な事件が起きました。
母親に「殺してほしい」と頼まれた息子が、母親の首をしめて殺害したのです。
この親子は貧困と孤立で苦しんでいましたが、公的な支援は受けておらず、あめ玉と水だけで4日間過ごしたこともあったようです。
この状況に絶望した母親が「死にたい」と訴え、息子は思いとどまるように説得しましたが、聞き入れらずに不幸な事件が起きてしまいました。
犯行に及んだ男と弁護人の法廷でのやりとりの一部です。
弁護人:「なぜ殺したのですか」
男 :「母から何回も、泣きながら『殺してくれ』と懇願されたから
です。生活が苦しく、食べるにも事欠くことが続いていました」
弁護人:「生活保護などの制度を知っていましたか」
男 :「当時は全く知らず、思い付きもしませんでした」
私はこの記事を新聞で読み、もしもこの親子が「生活保護」制度を知っていたらと考えずにはいられませんでした。
今回は、「介護」の問題とは切ってもきれない大切なテーマである「申請主義」についてレポートします。
日本の社会保障制度は「申請主義」です。
申請主義とは、社会保障制度を利用する場合、自分で窓口に申請を行わなければならない仕組みのことです。
だから、勉強も必要になります。
自分が活用できる制度は何かを知るためとその申請はどのように行えばよいかを知るためです。
自分や家族がピンチになったとき、活用できる制度を知っておくことは大変重要です。
しかし、重要だとわかっていても実際に自分や身内に問題が生じないと勉強する機会は少ないですよね。
私も親父が事故に遭うまでは、調べたり勉強することはありませんでした。
その結果、すべての制度を活用できず、ずいぶんともったいないことをしてきました。
たとえば、「障害者福祉制度」です。
私の父は、倒れて首の骨を折り、半身が動かなくなりました。
手術、リハビリを経て、介護施設に入所しましたが、その後しばらくしてから初めてこの制度のことを知りました。
知っていれば、もっと早く制度が活用できました。
このレポートをお読みの方は、自分や家族がピンチになったときに活用できる制度はもらさずに利用してほしいと願います。
まずは社会保障制度の大きなフレームから見てみましょう。
[社会保障制度]
社会保障制度とは、国民の安心や生活の安定を支えるセーフティネットのことです。
「社会保険」、「社会福祉」、「公的扶助」、「保健医療・公衆衛生」の4つの柱からなり、人々の生活を生涯にわたって支えるものです。
・社会保険とは、「医療保険」「介護保険」「年金制度」を指します。
・社会福祉とは、障害者、高齢者、ひとり親家庭などを支える公的支援です。
・公的扶助とは、「生活保護制度」のことです。
・保健衛生・公衆衛生とは、病気やケガに対する医療サービス、その他健康保持・増進するための仕組みです。
※参考資料
「社会保障制度とは」
https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/000872267.pdf
災害、事故、病気、失業、高齢化などで生活がピンチになったときに、これらの制度を活用するわけですが、制度ごとに担当する主体が国、県、市区町村と分かれています。
ひとつひとつの制度をすべて紹介すると、本一冊以上のボリュームになりますので、私(家族)が活用した制度と「親の介護」に関連する制度をセレクトしてご紹介したいと思います。
まず、障害があるために生活に支障が出てきた場合(病気やケガなどで)、確認しておきたい制度です。
[障害者福祉制度]
身体障害、精神障害、知的障害がある場合に対象になり、認定されると「障害者手帳」が交付されます。
例えば、「認知症で一人暮らしに支障が出てきた」「脳血管障害で身体に機能が損なわれた」場合などです。
認知症の場合は、精神障害として認定される可能性があります。
もの忘れがひどくなった程度ですと認定は難しいと思いますが、一人で生活するのに支障が出てきた場合には主治医に相談するべきです。
「障害者手帳」が交付されると以下のようないろいろなサービスを受けることができます。
・医療費の自己負担の軽減
・税金の控除または減免
・補装具購入費の助成または支給
・公共交通機関など各種運賃や通行料の割引
ここに紹介したのは一部であり、他にも受けられる福祉サービスがあります。
もし、該当する場合には、市区町村の福祉係で申請方法と受けられるサービス内容を確認してください。
[特別障害者手当]
介護関連の仕事に従事している方にお伺いすると、申請忘れが多い制度らしいです。
精神又は身体に著しい重度の障害があるために日常生活において常時特別の介護が必要な20歳以上の在宅障害者に支給される手当です。
自分が対象になるかどうかは、主治医もしくは市区町村の窓口(障害福祉)に相談してみましょう。
手当は月額27350円(令和2年4月から)
受給者や配偶者、扶養義務者の所得により 所得制限があります。
「在宅障害者」とあるので、介護施設に入所されている方は対象外になりますが、「グループホーム」は在宅サービスに区分されるので、受給対象になることは知っておきましょう。
[高度障害認定]
義父のときに知っていればと思ったのがこれ。
義父は、脳血管障害で半身麻痺の状態になり、言語機能は「もうええ」の一語しか発することができず、言葉によるコミュニケーションはとれませんでした。
この状態が言語の機能を失ったことになるかだけでも、医師に確認しておけばよかったと思っています。
もしも、「高度障害」に認定された場合には、「死亡ではなくとも保険金がもらえる」「住宅ローンの免除」などの可能性があります。
高度障害の基準を確認しておきましょう。
・両眼の視力を全く永久に失ったもの
・そしゃくまたは言語の機能を全く永久に失ったもの
・中枢神経系・精神または胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
・両上肢とも、手関節以上で失ったか、またはその用を全く永久に失ったもの
・両下肢とも、足関節以上で失ったか、またはその用を全く永久に失ったもの
・1上肢を、手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったか、またはその用を全く永久に失ったもの
・1上肢の用を全く永久に失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったもの
[補聴器購入を補助する制度]
聴力が規定以下の場合、身体障害者に認定されます。認定を受けていれば、障害者総合支援法により補聴器購入時に補助が受けられます。
認定される規定聴力は高度難聴レベルですので、軽度、中等度の難聴では認定されません。
身体障害者障害程度等級のいずれかに該当した場合、各市区町村の福祉課等へ申請手続きをすることで、補聴器など補装具の費用が支給されます。自己負担額は、原則一律1割負担となります。ただし、所得によっては例外があります。
(身体障害者手帳の交付対象とならない)比較的軽度の難聴のケースには助成する制度がないので、児童の言語発達を損なわないため、また高齢者においては生活の質の落とさないように、自治体による独自の助成制度をする動きが広まってきています。
補聴器の購入をお考えの場合には、自分の自治体の助成制度を確認されるとよいと思います。
次に、介護関連の制度です。
[高齢者向け住宅リフォーム助成制度]
一人暮らしの高齢者が住み慣れた町で暮らしたい、できるだけ自分の家で過ごしたいときにチェックしてほしい制度です。
この高齢者向け住宅リフォーム助成制度は、高齢者が住み慣れた住宅で安心して自立した生活を送るため、さらに介護者の負担を軽減するために住宅の改造などの費用を助成するためのものです。
対象者となるのは65歳以上の要支援認定・要介護認定を受けた人、またはその人と同居する親族の人となります。ただし、世帯全員の前年の収入額合計が600万円未満の世帯に限られています。
浴室,トイレ,玄関,台所,廊下,階段,居室,洗面所,玄関先等で高齢者の日常生活の改善に直接かかわる改造工事を行う場合対象となります。
既存の住宅内の改修を対象とし,新築工事や,増築となる工事は対象になりません。
また,借家の場合は共用部分の工事は除きます。
助成額は30万円に、世帯の課税状況(所得税)に応じた額となります。
ただし、対象となる工事の経費が30万円未満のときは対象となる工事の経費に補助率を乗じた額となります。
[高額介護サービス費]
介護の認定を受けると、1割~3割の自己負担で介護サービスを利用できます。
その自己負担の上限額を設けたのが、高額介護サービス費です。自己負担上限額を超えた分は、申請することで還付されます。
ちなみに高額介護サービス費の上限額は所得で変わってきます。
これは国の制度に基づいてそれぞれの市町村が実施するもので、個人の所得や世帯の所得に対して上限が異なっています。
[高額医療・高額介護合算療養費制度]
医療保険と介護保険の両方を利用している世帯が、高額な自己負担になる場合の負担を軽減する仕組みです。
医療費は、高額療養費制度によって月々の自己負担限度額が決まっています。同じように、介護利用料の月々の自己負担限度額を決めたのが高額介護サービス費でした。そして医療費と介護費を合算した年間の上限額を設けたのが、高額介護合算療養費制度です。
高額介護合算療養費制度のポイントは、1年間で限度額が決められている点と、同じ医療保険制度に加入している家族は合算できる点です。
該当すると自治体から通知がくるので、申請漏れがないようにしましょう。
ちなみに、高額の自己負担を軽減する制度は、「医療費」にもあります。
[高額療養費制度]
医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1ヶ月の間に上限額を超えた場合、その超えた額を支給してくれるのが「高額療養費制度」です。
上限額は、年齢や所得によって異なります。
自分が加入している公的医療保険に高額療養費支給申請を行うことで支給が受けられます。
自分が加入している公的医療保険を調べるには、保険証を確認します。
ちなみにこの制度も自治体で独自の助成を行っていることがありますので、自分の自治体のサービスも確認するとよいと思います。
[介護休業給付金]
介護休業給付金とは労働者が介護休業を取得しやすくし、その後の円滑な職場復帰を援助や促進をすることによって勤労の継続を支援するための制度です。
介護休業給付金は、雇用保険の被保険者で一定の条件を満たす方が、職場復帰を前提として家族を介護するために介護休業を取得した場合に支給される給付金です。ただし、介護休業開始日の前2年間に賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヵ月以上ある場合等に支給されます。
介護休業給付金を受けたことがある場合であっても、介護者の要介護状態が変わることによって再び介護休業を取得した場合も、介護休業給付金の対象となります。ただし、この場合は同一家族について受給した介護休業給付金の支給日数の通算が、93日が限度となります。
以上、私が重要と感じた制度を整理しました。
ものすごく大まかにまとめただけですので、他に活用できる制度がないかをご自身でもお調べください。
活用できそうな制度があった場合には、自分の住んでいる自治体の窓口で詳しい情報を入手してくださいまし。
また、コロナの影響で新たに導入された制度や廃止された制度もありますので、必ず最新情報を確認してくださいね。
国民の生活を助けるための制度はかなりたくさんあります。
しかし、これらは自分で申請をしないともらえないために、要件を満たしているのに活用されていない方がいらっしゃると思います。
自分もそうでした。
少しでもご家族の負担が少なくなりますように、活用できる制度はフルに使いまくっていただきたいと願っています。
最後に「厚生労働省」の資料[生活を支えるための支援のご案内]を紹介します。
これは、生活を支える制度(仕事やお金、その他支援)と相談窓口を一覧でまとめた資料です。
・生活を支えるための支援のご案内
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000622924.pdf
生活を支える制度(仕事やお金、支援など)と相談窓口の一覧
この記事が皆さまのご両親の親孝行に役立ちますように。
[参考資料]
・「介護にいくらかかるのか?」いざという時、知っておきたい介護保険の知恵
長谷川嘉哉(学研新書)
・公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 在宅医療テキスト
以上
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