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棚をつくる
お昼休み、母がいそいそと買い物に行く準備をしています。
そこへ父が声をかけにやってきました。
どうやら2人で一緒に出かけるようです。
「気をつけてね」と、私は声をかけました。
病気で症状が悪くなってから、母は重たいものが持てなくなりました。
昨年のいつだったか、ひとりで出掛けていた買い物も父を伴っていると話してくれました。
「お父さん、早くしろってうるさいから、ゆっくり買い物できないんだよねぇ」なんて笑っていましたけど、確実に不便なことは増えていました。
私は食料品や日用品の買い物は、ひとりで行く派です。
1日のどこかでひとりになる時間が欲しいので、買い物はもってこいです。
出掛けた先でパートナーと買い物している人を見かけると「仲が良いなぁ」と、微笑ましく思っていました。
母の話を聞くまでは。
他人の事情知るよしもなし、「買い物一緒 イコール 仲良し」一択で世の中を見ていた自分が不思議で仕方ありません。
いったいどの時点で、この思い込みが染みついたんでしょう。
¨**¨゜¨**¨゜
この日は実家に着くなり、弟に呼ばれました。
残っている棚づくりをやるのに、人手が欲しかったそうです。
ハウスに入ると、また一段とトマトが成長していました。
ぐんぐん伸びて実をつけ始めたトマトからは青みの濃い匂いと勢いを感じます。
さぞかし重くなっただろうなぁ。
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その重さを支える棚を作るため、マイカ線が使われます。
トマトを挟んで、両脇の通路に私と弟が立ちます。
弟が膝くらいの高さから、マイカ線の先を差し出してくれるので、それを受け取り、頭上を通る鉄の棒に巻きつけて行きます。
お互いの頭上にある鉄の柱に巻きつけ、マイカ線でU字を作るようなイメージです。
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【右側】ハウスの構造上渡してある鉄の棒にマイカ線を括ります。
体を屈めてマイカ線をキャッチしてからの、背伸びしてマイカ線を結ぶこの動き、じわじわと足腰にきますね、ただの運動不足です(笑)。
その作業をしながら、トマト越しに弟と色んな話をしました。
資材の値上がりから、トマトの価格転嫁はどんな感じなのか(物価高)
しばらく母が作業できないので、収穫の繁忙期をどうしようか(人手不足)
高齢になってきた父から弟への経営移譲のタイミングはいかに(後継者問題)
マイカ線を結びながら、話が途切れることがありません。
家庭のことを話し合う機会は、必要だとわかっていても、なかなか持てなかったりします。
弟も何やら持てあましているように見えました。
愚痴とも違うし、悩み相談でもない。
何となくモヤモヤした気持ちや、気になっていたことを自分の外に出してみて、確認し合う時間でもありました。
作業しながらだと、真剣な直球の投げ合いにはならず、もっと気軽なワンバウンドの投げっこのようで、普段は話さないことも話せた感がありました。
棚づくりが早めに一段落したので、別の場所で作業をしている父の携帯に連絡を入れました。
「手伝いは、いいよ(不要)」と言われたので帰り支度をしていると、急に父が現れました。
確定申告用の書類整理を思いついたらしく、手短に説明を済ますと、ハウスにとんぼ返りしていきました。
書類の細かい文字が老眼で見えずらく、時間ばかりかかるんですって。
またひとつ、父の老いを感じました。