漫画喫茶で居続け滞在の挙げ句にお金が払えず無銭飲食を告白したホームレスのお客さん。
新宿区歌舞伎町1丁目5番地の・・・8階建てビルの3フロアーを借りて、漫画喫茶を経営していたときの話。
聞かれたら聞こえがいいのでネットカフェと答えていたんだけど、業態はインターネットが使えるようになった漫画喫茶というのが適切な、そんな店舗を経営していたときのエピソードの一つ。
3フロワーのうち、4階に受付カウンターがあって店内の内階段で5階と3階を行き来できるようにした漫画喫茶でした。
営業開始時は4階だけの1フロワーで開業して、その後に5階を増床し追加で3階までキャパシティを増やすという業容拡大のせいで、内階段の3フロワーを上がったり降りたりという使いにくい店舗になったわけですね。
店舗の構造を活かして4階は自由席と個室席を半々に、5階は窓際に自由席を設けてある以外は一人用とカップル用に分かれた個室席という配置で、3階は窓際が喫煙コーナーですべて個室席というレイアウトでした。
歌舞伎町の靖国通り沿いという場所柄で、終電を逃した人たちが始発待ちをしたり、地方から明け方に到着する深夜バスの乗客が、シャワーや身繕いで利用するというケースもあって繁盛していたんですよ。(^^ゞ
金曜や土曜の夜ともなれば常に満席で、退店客待ちのお客さんが席があいたとたんに入れ替わりで入店するという盛況ぶりでしたね。
まぁ、そういう店舗ですから朝になるとほとんどのお客さんが退店するわけですが、中にはそのまま居続けるお客さんもいるわけです。
現在は当たり前のように、宿泊施設として認知されているネットカフェや漫画喫茶ですが、その当時はまだナイトパックという名称で、宿泊という呼び方もしていなかったんですよ。
店側としても、24時間になる前に一旦料金の精算をして、再入店手続きをとることで、宿泊施設じゃないという建前を守っていたんですね。
それが、料金踏み倒しの予防策にもなっていたんで、必ず入店から丸一日経過していない段階で料金の精算をお願いするのを、店舗の運用ルールにしていたんです。
ところがある日の精算依頼の時に、手持ちがなくて友達がお金を届けてくれるのを待っている、という自由席のお客さんが現われたんですよね。
それで、そのまま居続けることになったんですが、結局次の日になっても友達は来店せず、そのお客さんも待ちぼうけを食らっているという事態になってから、店長から指示を仰ぐ連絡が来たんですよ。
それで様子を見に立ち寄った感触でこれはムリだと判断したんですが、一応経緯を聞いた上で店長に確認すると、フリードリンクの飲み物だけで食事の注文はしていないらしく、何も食べずに居続けしていたんですね。
お金を友達が持ってきてくれるのなら、何か召し上がったほうがいいですよって誘いかけても「いや、けっこうです、だいじょうぶですから・・・」と断っていたんですって。
それもゆっくり休めない窓に面した窮屈な自由席で、ひとりポツンと座ってうなだれるようにマンガを読んでいる小柄な彼の、くたびれた合成皮革のジャンバー姿の背中は、今でも目に焼き付いて離れません。(/_;)
その後ろ姿に哀しいものを感じて、何か食事モノを作って提供するように店長に指示すると「そう言われると思ったので、カレーを準備しました!」と同じ気持ちでいたらしい店長が、大盛りカレーをトレイに乗せてんですよ。
そのまま他の店舗巡回に戻ったのですが、食べる後ろ姿がしゃくり上げて涙をふきながらカレーを食べていたようだったと店長から報告が来たんですが飢えを我慢していたことを思うと、こっちまで胸が痛むんですよね。(/_;)
そうやって食事を提供することにしてから日にちも変わり、何食かを食べたあとに店長のところにやって来て、自分は実は無銭飲食なんだと告げたんですよね。
店長から連絡をもらった私は、そのまま店舗に出向いて詳しい事情を聞いてその無銭飲食のお客さんに対処しなくちゃならなくなりました。
その彼は、住み込みで勤務していた新聞販売所を、対人トラブルが原因で辞めたらしく、住むところもお金も無い状態で、所持品は着替えの入った紙袋だけという着の身着のままに近い状態。
身の振り方に行き詰まった彼がとった行動が、警察に突き出されるのを覚悟で当店に入店して、当座の雨露を凌ぐということだったんですね。
本人の希望としては、どうせ行く当ても無いし郷里に帰る旅費も無ければ家族にも顔向けできないので、どうぞこのまま警察に突き出して欲しい、というものでした。
さて、どうしたもんかと考え込んでしまったんですが、結局、本人とも話し合って出した答えが、まず住み込みで働ける別の新聞販売所の面接を受けに行かす、という就職活動を促すことでした。
彼の前職の新聞販売所の仕事というのは人手不足で、なかなか人が集まりにくいのを知っていましたから、まずは職と住むところを探すことが先決だというわけです。
そして住込み先が決まるまでの宿泊所として、しばらくの間うちの店の個室席に滞在してもらうことにしたんですね。
うちの店を現住所にして住込みの仕事を見つけて、給料が出たらその時に利用料金を後払いで支払ってもらうという条件にしたんですよ。
彼にしても望外の条件だったようで何度もお礼を言われ、こっちも放り出すわけにはいかないし警察に突き出しても、彼のその後の人生が好転するわけじゃ無いので、双方にとって落としどころとしていい話だったんですね。
それに前科がついてしまうと、ますます就職が困難になるっていう悪循環に陥ることが目に見えていましたから、なかなかの最善策だったと思います。
あとから振り返っても、それがもっともお互いが納得できる解決策だったと思うんですよね。
そういう提案を出してもいいくらいに、彼の無銭飲食という行動の中からでも読み取れたことがあったんですよ。
それが、料金の発生する食事を注文もせずフリードリンクの飲み物だけで飢えを我慢していたことや、高い個室席に入らずに料金の安い自由席を利用していたという、彼の誠実さのようなものだったんですね。
善は急げで早速、翌朝には紙袋に入った着替えを店に残したままで、いそいそと仕事探しに出かけたそうです。
そして出かけた彼は・・・。
夜になっても帰ってきませんでした。
とうとうその日も、その翌日も、帰ってはきませんでした。
失望感と裏切られたような気持ちで落胆しましたが、これも仕方がない。
気になったのは、ちゃんと生きていけるかどうか・・・他の店で同じようなことをしていなければいいのだけど・・・っていう思いが残るだけでした。
ほら、恩は着るもの着せぬものっていうの、これ私の人生訓ですから。^^
まぁ、そんなこともありました。
新宿区歌舞伎町1丁目5番地という繁華街の取っかかりにあった漫画喫茶ですんで、いろんなことがありました。
嫌なことも起こるんですが、なかには嬉しいことも起こるんですよ。^^
ある日のことでした。
店長が興奮した様子で私に電話をかけてきました。
「社長~~ッ!来られましたよ~~ッ!お金とお菓子を持って・・・あのお客様がこられましたよぉ~~!」
彼が帰ってこなかったあの日から、1ヶ月ほど経過した日のことでした。
面接に行ったその日から働くことになって、やっと給料をもらって届けに来たんだと、胸を張って誇らしげに帰って行かれたそうです。
店に置きっぱなしだった着替えの入った紙袋を、大事そうに両腕で抱えて帰られたそうです・・・。
支払ってもらった金額は利用料金のみの数千円でしたが、いただいたものはお金以上の誠実な思いでした。
こんなことがあるから、商売って、面白いよねぇ・・・。(´д`)
縁を大事にすると幸せな気持ちに浸れるよね、人を信じるってことも捨てたもんじゃない・・・という話。
っていうのが今回のエピソードです、題して
「漫画喫茶で居続け滞在の挙げ句にお金が払えず無銭飲食を告白したホームレスのお客さん。」というエピソードでした。
では!
お金が無くても のほほんと。