マトモな人のはずがないでしょ!こんな仕事しか出来ないのに!聞こえた看護師の陰口が世間の目!【回顧③】
この話は【回顧②】専務の片腕にという殺し文句に釣られて入社したビル清掃会社で待ち受けていたのは!の続きです。
前回の記事では、専務の片腕になってくれという殺し文句に釣られ、ビル清掃会社で働くことになり、勤務開始早々に出かけた作業現場の、病院到着までの話で終わってたのよね。
最初の作業現場となった病院で二人ずつ組になって、床の清掃とワックスがけ、トイレ・洗面所の清掃と窓拭きといった作業をこなしたんだけど、具体的な仕事は「見て覚えろ」という態度だったんですよ。
作業当日は休日でもないのに診療科目が精神科の病院だったので、一般外来も少なくて作業はしやすかったんですね。
それに病院も新築したばかりかと見間違うくらいに、綺麗に維持されていたんですが、私が組んだ古参社員の話によると「儲かっちょるから、自分らでは掃除せんと、うちらの会社にさせちょる」ということだったのよね。
それも、清掃会社が提案する作業計画をそのまま承認してくれるもんだから会社も図に乗って少しずつ単価を上げたり、まだ清掃やワックスがけをしなくてもいい場所まで、ご丁寧にやってるんだというじゃないですか。
要するに上得意の取引先として、その精神科病院はカモにされていたんですよ、私が働き始めた清掃会社に。
そんな状況で継続されてきた実施しなくてもいいような作業だから、丁寧に磨き込んだり汚れ落としをしたりするまでもなく、すぐに終わらせることが出来るわけですよ、ちゃんとやれば。
「おい、新人さんよ、ちゃんと仕事しちょるふりをせい!」
「え?今なんて言いました・・・? え?」
「チッ!わからん野郎ね、身体をちゃんと動かせ、力は入れんでよかで・・」
「えッ?それじゃ、汚れが落ちませ・・・」
「バカか!・・・そん汚れが、次の仕事になっじゃろが、来週の仕事に・・・」
「・・・・・・そういうこと、ですか・・・。」
にんまりと笑う古参社員の歯が、何本か抜けているのに、気がついたのもこのときだったのよ。
もちろん、古参社員の言っている意味にも気がついたけど、なんだこりゃ!
こんな仕事でいいのだろうか、いいはずがない・・・これは報告しないと。
胸にモヤモヤを抱えたままで作業は続いたんだけど、最後の作業が窓拭き清掃でした。
一定期間ごとの本格的な窓洗い清掃と違って、この日は薄~い洗剤入りのスプレーと、下拭き用の雑巾と仕上げの空拭き用の雑巾2枚を使って拭き上げるだけの軽作業だったのだけど、窓にへばりつくのは一緒なのよね。
上の階の病棟の窓から始めて下に降りていき、最後に残ったのがナースステーションというのか、看護師たちの仕事場についている他より大きな窓だったのです。
要領も分かってきた私にアゴをしゃくって指示をする古参社員は、さも自分の晴れ舞台が始まったとばかりに脚立の脇に立って腕組みして、ひときわ偉そうな態度で室内の看護師たちに分かるように偉ぶるのですよ。(^_^;)
まぁね、気持ちは分からんでも無い、5~6人の女性看護師がちらちら視線を投げかけてくる中での作業だもんね。
外から眺める室内よりも、窓にへばりついて作業している姿のほうが目立つやろうし、自然光を人影が遮るから気にもなるんだと思う。
その大きな窓のほとんどが嵌め殺し窓といって、解放できない固定の窓だったんだけど、一部だけ開放できる狭いスリット窓があって、そこから看護師詰め所の話し声が聞こえてきたんですよ。
「おらおら、落ちんように気ぃつけんか!よそ見すんな!」
っていう、オレ偉いのよコイツよりアピールの古参社員に負けじとばかりに踏ん張って作業をしている私の耳に聞こえてきた、看護師たちの会話。
「・・・・・普通に見えるよね?・・・なんで、こんな仕事をしてるのかな?」
「どっかおかしいんじゃない、普通に見えてもさ、でないと、ねぇ・・・」
最初にこの会話が聞こえてきたときは、何の話をしているのかまったく気がつかなかったんですよ。
「マトモな人のはずがないでしょ!こんな仕事しか出来ないのに・・・」
「ほら、何やってるのあんたたち、本人に聞こえたら悪いよ、黙って!」
え?本人に聞こえたら悪い・・・?
ええぇぇ~~~ッ!
もしかしてボクのこと~~??(゚Д゚)
それが分かった瞬間に、顔から火が出ました。(/_・)/
真っ赤っかな顔で聞こえなかったふりをしながら、なんとか作業を終えたものの心中は穏やかじゃありませんでしたね。
心の中じゃ、専務の片腕候補だわい、普通の人だわい、そもそも普通って何なのだ、そういう怒りと反発心が羞恥心とせめぎ合っていたんですよ。
そして気づいたんです、世間の目って言うヤツに。
特にその病院が精神科病院だったからかも知れないけど、職業に対する偏見や評価という色眼鏡と向き合うショッキングな出来事でした。
それが、22歳の時のこと。
そこから反発心などもあったのか、人を外見や職業、肩書きといった後付けの権威や装飾に惑わされて、本質を見抜かないで外側だけで評価してしまうということに対して、ものすごく疑問を持つようになったんですよ。
そして、その日の午後に向かった2カ所目の現場で聞かされた、ショックなことが追い打ちをかけたんですよ。
実は、病院での作業の手抜きを報告するべきかどうかで迷った挙げ句に、報告する前にそのことを古参社員たちに伝えておこうと考えたんですよ。
なんだか告げ口みたいで卑怯な気がしたもんだから、やっちゃいけないことなので報告するよ、って堂々と通告しようと意気込んだんですよ。
作業の合間の休憩中に、思い切って言ったんですね。
「あの、話があるんですけど、病院の手抜きはやっぱ、ダメですよ!」
「新入りのお前が、そげんことを考えんでも、よかとじゃ!」
「そいでも、いかんですよ!ちゃんとしないと・・・。報告しますから・・・」
「へっ!誰に報告すっつもりよ、お前は・・・専務にじゃろうが。」
「そうっすよ、専務に報告しないと・・・。」
「バカたんが!専務がせいっちゅうた事やがね、手抜きは全部専務の・・・」
えッ?
固まりました。
何を言ってるんだろうかって思いましたが、古参社員たち全員がニヤニヤして薄笑いを浮かべているんですよ。
まさか、専務の指示だとは思っても見ませんでしたね。
ショックで呆然としている私に向かって古参社員が言った言葉が
「おい、新人さんよ、お前はよかヤツじゃね!もちっと話してやろかい?」
そう言って古参社員に教えられたことが、専務と病院の事務長が中学・高校の先輩後輩で、二人で共謀してやっていることだという驚きの裏事情だったのですよね。
専務から事務長に上乗せ請求の中から、いくらかキッシュバックもしてるみたいだと言うのですよ。
それに驚きを隠せずに呆然として聞いている私に、古参社員はトドメの話を聞かしてくれました。
「新人さんも、専務の片腕で誘われたクチじゃろうが・・・笑」
「え?そう社長に言われましたけど・・・なんで?」
「ここにおる5人も、ぜ~~んぶ、専務の片腕よ・・・笑えるやろが!」
なんと、古参社員を含めた先輩たち5人が全員、同じように専務の片腕に、という殺し文句で誘われていたのよね!
唖然として、目ん玉を見開いたままの私に向かって古参社員が慰めるのよ。
「あんたも、かわいそうじゃけど、ワシなんか何年してもまだこの有様よ」
その時愕然としたまま、眺めた窓の向こうに見えたのが建設中の高層マンションだったんですよ。
ショックを隠そうとしてそのマンションのことを聞いたのよね。
「あ、鹿児島にも、あんなマンションが建つんですねぇ・・・。」
「あぁ、あれはマトモな銭持ちん人たちが住むマンションよ、縁は無かがよワシにも、お前さんにも・・・なんつってん、ずう~ッと専務の片腕のまんまで、ウダツが上がらんのじゃから、ずぅ~っと安月給のままよ・・・笑」
そう言って口元をゆがめて、自虐の笑いを漏らしたんですよ。
(いいや!このままウダツが上がらんまんまじゃ、済ません!絶対にあのマンションに住めるような身になってみせる!住まんでも絶対にオーナーになってやる・・・。)
そう誓ったんですが、この時もう一つ思い定めたことがあるんですよ。
それが、人を外見や職業・肩書きで評価することにものすごく疑問を感じながら、結局自分も専務の片腕という肩書きやポジションに惑わされて、同じ事をしていたじゃないかってことに気づいたんですよ。
この日から、私は人の評価ということに対して考えを改め、反発心で23歳で新築マンションを購入することになった、きっかけとなる出来事でした。
実際にその時のマンションを購入するまでに、あと1年近くかかってしまうんだけど、若気の至りとも思える無謀なマンション購入の夢物語は、この日に始まったんですよね。
記念すべき若き日の想い出ですね。
ってことで、今回は
マトモな人のはずがないでしょ!こんな仕事しか出来ないのに!聞こえた看護師の陰口が世間の目!【回顧③】というマトモに反発した話でした。
では!
良くも悪くも のほほんと。