思い出をぎゅっとまるめたシワシワおにぎり
日ごろの疲れを癒すために始めたのが寝香水だった。文字通り、就寝時に香水をつけること。もともと香水が好きだけど、つける機会は限られるし、既に一生使いきれないんじゃないかとも思っていたところだった。
お風呂上がりのほかほかの肌にひとつ吹きかけてみる。ジャスミンの香りが広がって、目を閉じて香りを楽しむ。これで私はぐっすり眠れる。
香水というものは時間が経つにつれて香りに変化が起きる。それに加えて、纏う人の体温によっても香りが異なるらしい。
昨日の夜、私が冷たい布団でもぞもぞと体勢を変えたときにふと感じたのは、懐かしい香り。
海苔。それも萎れた海苔。
ああ、これは小学校から高校にかけて、母が作ってくれたおにぎりだ。慣れない香りと寝ぼけた頭が、そう認識した。
私の母は熱々のおにぎりに海苔を巻いて、お弁当箱に詰めてくれていた。私がお弁当箱を開ける頃には当然海苔は萎れていて、白米に張り付き、噛みちぎるのが難しくなっていた。
そんなお弁当を目の前にしたお昼の時間を思い出した。
高校の途中から、私はパリパリの海苔に巻かれたおにぎりを欲して、母には白米おにぎりだけ詰めてもらい、私は別で海苔パックを持参した。お弁当の時間になると、私はパックから海苔を取り出し、白米に巻きつけ、「パリッ」といういい音を響かせていた。
それ以来、母が巻いたシワシワ海苔のおにぎりは食べていない。母はどんな気持ちでおにぎりに海苔を巻いていたのか、今となっては分からない。
私は大学生になり、母のお弁当は卒業した。実家に住んでいるため、料理好きの母のご飯は毎日食べている。
次、シワシワの海苔を食べるのは来るのだろうか。それは誰が作ったものだろう。私が誰かにおにぎりを作る日は来るのだろうか。