ミモザの花ー私と秘書の旅ー
ハトコからミモザでリースを作ったと写真が届きました。美しいイエローが輝いていました。
20代の私は、まだ残るバブルの残り香の恩恵を受けていました。高校時代からの友人が重役秘書になり、旅行の段取りをしてくれて、よく海外に出かけたものです。彼女からの指令が出ると、日程を確保し、書類の直筆サインの箇所と旅行代の振り込みをするだけで、私は機上の人になります。
そもそもこの秘書は人が好まない旅行に限り私を誘ってくるのです。犬ゾリに乗って、氷の海を割って泳ぐ旅をしないか、アフリカへキャンプをしないかなど、皆に断られて、最終兵器の私に声をかけるのです。ちなみに私は寒いところも犬も苦手だし、暑くて虫の出る場所も嫌いで断わりました。この秘書は、知ってるくせに容赦無く、私を連れ出そうとするのです。
秘書が言うには、私と旅すると強烈に天気に恵まれるそうです。その代わり同行する添乗員が、強烈にポンコツになるらしいです。自覚はありません。ちなみに私が同行しない旅は、異常気象に遭遇する率が高いそうです。そんなの知ったこっちゃありません。
この旅行の数ヶ月前にも国家試験の前にも、北海道にスキーに行こうと誘ってきました。私はスキーはしたことないし、国試前に滑りたくないからと断りましたら
「あなたは滑らないで、キッズコーズで雪だるまを作っとけばいい。」と言います。ちなみに彼女はスキー上級者です。国試がなければ雪だるまも悪くはないと思いますが、おおよそワガママで、ひどい秘書なのです。
南イタリアのシチリア島への旅に出たのは、看護学校を卒業した春のことでした。当時南イタリアに行くツアーコースは少なく、「ゴッドファーザー」のイメージから、危険極まりない場所に行くと心配されました。けど私は映画を見ていませんでした。
それ以上に秘書との旅行は、全てが完璧に準備してくれて、何も考えなくていいので、断然楽ちんで好きなのです。当時の南イタリアのガイド情報も少なかったのですが、秘書は図書館で本を探し、数冊分をコピーしてオリジナルのガイドブックを作ってくれました。私は国試の疲れで、ますます考えることもしないで、適当に旅に出ました。
機種のトラブルやオーバーブッキングなど数々のトラブルを経て38時間かけてシチリア島に着いたので、ますます自分がいる場所は、地球のどこなのか理解不能の状態でした。おかげで旅の半分は、「私、どこにいるの?」という質問を繰り返し、秘書に嫌がられていました。
そんな中、見学にいった丘の上のギリシア神殿の近くに、見事なミモザの木がありました。ミモザの花は鮮やかなイエローで、大きくてふわふわで、一瞬で心を奪われました。私はこのミモザの木に会いに、この丘に再び、戻ってきたい。このミモザといつか再会したいと願いました。
そんな思い出のミモザの思い出が、リースの写真を見て蘇りました。あれから30年近く過ぎました。私は無職で引きこもり、秘書は結婚して東京に行き、主婦になりました。不思議と今でも秘書との旅の思い出は、ミモザのイエローで満ちているのです。