「My Sweet Darlin'」あなたで頭がいっぱい
愛車の廃車まで数日が迫りました。車内の後片付けをしていました。
ハッチバックにおきっぱなしのトートバックにはCDが放り込んであります。私は整理整頓が趣味なのですが、唯一の苦手がCDの整理だけが大の苦手です。
ケースとCDを適当に入れてあるので、中身を確認していたら、矢井田瞳の「My Sweet Darlin'」が出てきました。あの時の思い出の曲です。
数年前、私は知り合いを通して、看護学部の病棟実習の指導を頼まれました。
私みたいな人間にお鉢が回ってくるなんて、よっぽどの人手不足です。かなり固辞しましたが、引き受けるしかありませんでした。
その時「ちょっと大変な子だけど、先生なら大丈夫!!」と紹介されたのが彼でした。事実はすぐに分かりました。彼はちょっと大変ではなく、ものすごく特上級に最悪に大変な学生でした。つまり何の申し送りもなく、私を担当させたのでした。
彼は毎日、毎日やらかしてくれるので、私は受け持ちの数週間、彼で頭がいっぱいになりました。どう考えても指導しても、何をしても煮ても焼いても、どうにもならない学生でした。
でも一生懸命に頑張りました。彼とたくさん話もしたし、実習先に何度も何度も頭を下げました。同じグループの学生にも助けてもらいながら彼に向き合いました。
毎日どうしていいのか悩みました。ご飯を食べても、お風呂に入っても、何をしても彼のことで頭がいっぱいでした。
そんな苦しい実習を奮い立たせたのが、矢井田瞳の「My Sweet Darlin'」でした。
来る日も来る日も、実習先へ爆音で歌いながら往復しました。
・・・
ついに私は本気で彼の将来を考え、別の進路を考えるべきではないかと上司に話しました
「学生が減ると、先生の給料が減るのよ。」といなされました。
学生はお客さんであることを知りました。看護教育の場で、こんなセリフは聞きたくはありませんでした。
そもそもバイトの非常勤の教員で、なんの権限もない私が、余計なことを言ったものです。
その時、私は先生家業は性に合わないことを痛感しました。そしてこのシーズンを最後に仕事をやめました
彼がそのあと卒業したのか、国家試験にパスしたのか知りません。ただ次の実習先で行方不明になったと風の噂で聞きました。
矢井田瞳の「My Sweet Darlin'」聴くたび、真面目だけど不器用に実習に取り組む彼と、私のことを思い出します。
・・・
もう捨ててしまおうとCD手に取りましたが、なんとなくもう少し置いておくことにしました。
どんな仕事であれ彼が元気で頑張ってくれていたらいいなと祈っています。