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私は転校生

私は中学3年の1学期で転校することになった。私の病気で引っ越しが遅れたからだ。どっちにせよ中学は1年で卒業なので、新しい友だちを作くらないでおこうと心に誓った。実のところ、前の学校の友だちが恋しくてたまらなかったのだ。

始業式に向けてキャラ設定を必死に練り込んでみた。病弱で近寄り難い雰囲気を醸し出し、孤高の人を目指す。この線で行こう。

朝1番に登校し、静かに読書する転校生。しかもその本は横溝正史。家にあったマイナーな横溝正史の文庫本を、カバーを付けずに不気味な表紙絵をモロだしで読んでみた。

どうだ❗️近寄りがたいだろう。ふふん。

最初に面食らったのは、学級委員のAくんだった。ちょっと不良っぽいAくんは、その風貌と異なり根が超真面目だった。

彼は、横溝正史にドン引きしながら、なんとか転校生をクラスに馴染ませねばと、毎日悩み続けたそうだ😛

キャラ設定に都合よく、担任は私は病弱で体育は参加出来ないと紹介された。確かに腎臓病で転校が半年延期になったし、体育が出来ないのも事実。キャラ設定にブレはなし。

しめしめ

実際には、お見舞いに来た善良な男子の友だちに、乙女の占い雑誌「マイバースデー」を買いに行くように命じるなど、病気特権を振り翳した暴君キャラだった。後世、あのパシリはつらかったと友だち言われた😛

でも気にしなーい!

新学期の朝礼はかったるい。しかもキャラ設定のために朝1番登校しているので眠い。転校前の学校は家から近く、8時から始まるラジオ番組「ありがとう、浜村淳です」をギリギリまで聞いてから登校していた。だから如何にこのキャラ設定のために、早起きして役作りを努力しているかだ。

ゆえに眠くなるのは当然で、朝礼で私は立ったまま居眠りしていた。近くの女子Bさんが、「大丈夫?一緒に保健室へ行こうか」と声をかけてくれた。いやそのまま寝かせておいてくれたらいい。しかしBさんは親切で面倒見が良い人のようで、何度も声をかけてくれた。彼女はこの中学校で人望が厚い人格者だった😛

ちょっとごめん。

それなりにキャラが定着してきたところに、後ろの席の漫才コンビのような女子が馬鹿な話をしだした。ちょうど英語の比較級の単元だった。ついつい聞き耳を立ててしまった。

「MOREだって。クスクス」

「もっと!って意味、クスクス」

「もっと〜もっと〜💖」

「外人さんはMORE〜MORE〜だね」

「ほんとかな、アハハ」 「いただーうふふ」「クスクス」

どうしょーもない下ネタなのに、つい彼女らの笑いと同じタイミングで笑ってしまったのだ。その時、彼女たちの目が、「同類発見‼️」とばかりにニタリと笑った。それはまだ転校2日目のことだった。

一生の不覚😖

それからぼろぼろとキャラは崩壊。1学期の終わりには完全にキャラ設定が崩壊していた。Aくんからは、お前に騙されたと50を過ぎても、いまだにネチネチ嫌味を言われているし、Bさんは、小さなため息をついたけど、やっぱり心配したのに!と怒られた。その2人を含めた数名が、いまも時々集まる友人たちなのである。

新しい友だちなど、要らないと頑張っていたけど、ちゃっかりたくさんの友だちができたのだ。もしかしたら一生の友だちと言うのかもしれない。付かず離れず数年に1回ぐらい集まっている。毎回「アホ転校生に俺は騙された。」「私は騙された。」と永遠にネタにされている私である。でもAくんもBさんは今も昔と同じように親切で優しい。そして私は彼らが大好きだ。

こんな友だちに出会えて、私は最高に幸せな転校生だと思う。

みんなありがとう!

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