よくぞチューバを選んでくれた!
「うちの子が、チューバを吹くこととなりました」と友人から一報が入ったのは、4月のことでした。
「チューバ」という楽器をご存知でしょうか。
管楽器の中で、1番大きくて、1番低い音が出せる楽器です。
重さは10~15㎏、管をつなげた全長は約10m。吹くのも、持ち運ぶのも、体力が必要です。
オーケストラや吹奏楽での役割は、低い音でリズムを刻んだり、ハーモニーを支えたりと「縁の下の力持ち」的な存在。
メロディーを吹くことは、ほとんどありません。
チューバの練習を、そばで聴いていると、「ブー」とか「ボン、ボン、ボン」とかばかりで、何を吹いているのか、わかりません。
他の楽器の人に「そんなの吹いて、おもしろいの?」と真面目な顔で聞かれることも。
お察しの通り、チューバは、不人気な楽器ナンバーワン。
オーケストラ部や吹奏楽部では、人気のある楽器の争奪戦に負けた人が吹くこととなる「ハズレ」の楽器なのです。
なぜ、友人の子、Sくんがチューバを吹くことになったのか気になります。
じゃんけんに負けたのか、くじでハズレをひいたのか、自ら希望したのか、気になって、友人に経緯を聞いてみると……。
Sくんの通う小学校は、マーチングをする吹奏楽部が人気で、入部資格は4年生以上。マーチングに憧れていたSくんは、今年の春、4年生に進級すると、さっそく吹奏楽部に入部しました。
吹奏楽の花形、1番人気のトランペットを希望したら、なんと選抜試験があるというではありませんか。
じゃんけんやくじで負けたのなら「ガッカリ」で済みますが、選抜で落ちたら、さぞショックでしょう。
Sくんなりに考えた末、選抜試験は辞退。
「大きな楽器もかっこいい」と、自ら「希望者ゼロ」のチューバにしたのです。
母である友人は「マーチングバンドなのに、チューバなんて。身体が大きいわけでもないのに」と、心配していましたが、私は「よくぞ、チューバを選んでくれた!」と、彼の選択に大拍手しました。
なぜならばチューバは、数ある楽器の中でも、素晴らしい楽器だからです。
今回は、Sくんと母である友人、そしてみなさんに、私が思う「チューバの素晴らしい理由」をお伝えしたい!
チューバが素晴らしい楽器の理由① 吹いている人が素晴らしい
私も、中高と吹奏楽部に所属していました。
チューバ吹きは、みんなやさしくて思いやりがあって、ユーモアあふれるムードメーカー。
中学のときのS先輩は副部長、高校のときのF先輩に、M先輩、F君はサブキャプテン。3年生にチューバがいるときは、副部長やサブキャプテンに選ばれていました。
部長やキャプテンではなく、「副」や「サブ」というのも、チューバの特徴である「縁の下の力持ち」的なところが表れています。
不思議なことですが、吹いている楽器に人間が同化していくのです。
チューバが素晴らしい楽器の理由② あるとないとでは、大違い
チューバだけで練習していると「どんな音楽なのか、よくわからない」のですが、合奏すると、あら不思議。チューバがあるとないとでは大違い。
チューバの「ボン、ボン、ボン」というリズムを刻む重低音がなければ、力強く、勇壮な行進曲にはなりません。
「ブー」という重低音がなければ、ハーモニーが宙に浮いてしまい、間の抜けた音楽になってしまいます。
「縁の下」の、基礎や土台がないと、家を建てることはできません。
オーケストラや吹奏楽が奏でる、躍動感や、美しさ、迫力ある音楽は、チューバが基礎や土台となり、音楽を支えているのです。
チューバが素晴らしい楽器の理由③ 何でもできる
高校生の頃、イギリスの作曲家ヴォーン・ウィリアムズの「バス・チューバ協奏曲」という曲を演奏する機会がありました。
曲の名前の通り、主役はチューバ。
チューバ独奏は、プロのオーケストラの方で、初めていっしょに合奏をしたとき「これがチューバの音なのか!」と感動しました。
たった1本のチューバが、私たち50人が奏でる音楽を包み込み、高い音から低い音、細かい音符から、哀愁のあるメロディーまで、今まで聴いたことのないチューバの音を聴かせてくれたのでした。
他の楽器と同じように、いいえ、他の楽器にもない音も出せるのも、チューバの魅力。みんなを包み込むような温かい音、そしてホールを揺さぶるような激しい音は、チューバにしか出せません。
チューバは、何でもできるのです。
伝説のチューバ吹き、ジョン・フレッチャーさんの演奏をぜひ聴いていただきたい。スマート、ユーモラス、シリアスと、どんな音色も自由自在。
超絶技巧も軽々と吹きこなします。
▼ ヴォーン・ウィリアムズ「バス・チューバ協奏曲」
演奏:ロンドン交響楽団 指揮:アンドレ・プレヴィン
チューバ独奏:ジョン・フレッチャー
▼ リムスキー=コルサコフ「熊蜂の飛行」
チューバ独奏:ジョン・フレッチャー
チューバを選んだSくんへ伝えたい。
あなたが選んだチューバは、こんなに素晴らしい楽器なのです。
チューバが重くてイヤになって、違う楽器を吹く日が来るかもしれません。
楽器を吹くこと自体が、イヤになることがあるかもしれません。
そのときは、心の思うままに、やめてもいいと思います。
音楽は演奏しなくとも、聴くだけでも、楽しいものです。
中学生になったら、オケ部や吹奏楽部に入るかもしれません。
部活の練習で忙しくて、ゲームやマンガを読んだりできないけれど、練習した曲や、仲間との思い出は、大人になっても、大切な宝物になります。
秋の運動会に向けて、マーチングの練習で、毎日がんばっているSくん。
たくさん練習して、たくさん食べて、たくさん寝て、チューバを軽々と担げる体力をつけて下さい。遠くから応援しています。
最後に、Sくんとみなさんに、3つの動画を紹介します。
私が高校生のときに、チューバがすてきだな、と思った曲、グスターヴ・ホルストの「吹奏楽のための組曲 1番」を聴いて欲しいです。
はじめのところ、チューバと金管低音部のメロディが、やさしくてずっしりとした響きで、いつ聴いても「チューバって、いいなぁ」と思うのです。
▼ 「吹奏楽のための組曲 1番」
演奏:東京佼成ウインドオーケストラ 指揮:下野竜也
私は、木管楽器を吹いていましたが、金管楽器の、華やかで重厚な響きに憧れていました。
金管バンドの演奏がとても好きで、その中でも「フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル」の演奏が1番好きです。40年前の中・高生憧れの、金管バンドでした。チューバは、ジョン・フレッチャーさんです。
残念ながら1986年に解散しましたが、YouTubeやApple、Amazon musicで聴くことができます。
紹介するのは、日本のテレビ番組に出たときの動画2本です。
45年前の映像で、音声も悪いところがありますが、金管バンドの楽しさがわかってもらえるかな、と思います。
▼ オーケストラがやって来た 1979年7月放送
「フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル part 1」
1. メンバー紹介 ~ 番組テーマ
2. イージー・ウィナーズ
3. 楽器紹介
4. スザート組曲から(基町高校との共演)
5. ロンドンデリーの歌
▼ オーケストラがやって来た 1979年7月放送
「フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル part 2」
1. 番組テーマ ~ コンバットマーチ
2. クラーケン
3. かっこう
4. オールド・シャレー
5. 「ヴェニスの謝肉祭」変奏曲
6. 浜辺の歌
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最後まで、お読みいただきありがとうございました。
また、お会いできるのを楽しみにしています。
やんそんさんでした。
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