映画「100日間生きたワニ」を鑑賞しました(※ネタバレ無し)
現在公開中の映画「100日間生きたワニ」を鑑賞しました。
きくちゆうきさんの漫画「100日後に死ぬワニ」を原作として映画化された本作。公開当初から客入りが良くない事が話題となり、遂には映画館に嘘の予約を入れ、人文字を作って遊ぶ輩まで現れ、映画館が被害を訴える騒ぎになりました。
ネット上には嘘のレビューや作品を中傷する書き込みが溢れているのですが、この作品をよく知らない私は却って観たくなり、余計な情報が入るのも嫌なので公式サイトも事前に見ず、早めに映画館へ観に行く事にしました。
私が観たのは平日の昼間だった事もあり、70席ほどの席数に対して観客は私を含め7人でした。まあ、聞いていた通りの客入りのようです。客層は20代〜30代とみられる層と50〜60代とみられる層が半々ぐらい。
この映画の監督・脚本は「カメラを止めるな!」で知られる上田慎一郎さんとアニメーション作家のふくだみゆきさん夫妻。
「カメラを止めるな!」では前半にホラー映画の体でB級ゾンビ映画を1カット長回しで見せておいて、後半ではそれが劇中劇だと明かし、撮影中に起こる数々のトラブルを解決していく様子をコメディとして見せています。
「100ワニ」も「カメ止め」に似た構成で、前半で「Xデー」となるお花見の日の100日前からワニくんと仲間達の日常をひたすら描き、後半ではお花見の日から100日後の仲間達の姿を描いています。
原作漫画では結末が観客に最初から明示されている事で、そこに至るまでの登場キャラクターの何気ない日常や会話の積み重ねが、ワニくんの未来を暗示させるようにも見える効果を引き出し、結末を見届けようとする読者の注目を集めたのですが、これを映画化しようとすると、最初からネタバレされた状態なので、原作をそのまま映像化しただけでは作品の持ち味が観客に伝わらないと思います。もう一押し何か必要なのは分かるのですが、もし私が脚本を書くとしても映画オリジナルの後日談を付け足す位しか落とし所が思い付きません。映画化するには意外に難しい作品だと思います。
原作漫画が書籍化された際にも後日談が追加されたらしい(未読)し、実際、初期の映画脚本でもそうなっていたらしい(パンフレットでの監督インタビューより)のですが、昨今の社会情勢の急激な変化により「その先の物語を書く必要がある」(同)との考えから、「100日後の仲間達の姿」を描く構成になったそうです。落とし所としても大変上手いと感じました。
後日談と言っても、ワニくんがいなくなっても他のキャラクター達は普通に生活している訳だから、新しい仲間が出来たり、生活環境が大きく変わったりして、仲間達の周辺は否応なしに変わって行きます。ワニくんと過ごした日々を思いつつも、変化を受け入れ前を向いて生きていく仲間達の姿からは、それぞれの思いを引きずりつつも、救いのようなものを感じました。
ところで、この映画、スタッフやキャストにそうそうたる面々を起用していながら、あまりテレビなどでの宣伝に力を入れていない気がします。原作漫画の完結と同時にキャラクター商品の展開や映画化が発表されたのですが、キャラクター商品の売れ行きは芳しくないようですから、もし話題に便乗するだけの商業的な成功が目的なら、その時点で制作中止もあり得たのではないかと思うのです。にも関わらず、厳しい社会情勢の中、完成にこぎつけたことから、この映画は、実は原作が心から好きな人達が採算度外視、手弁当で集まって作ったインディーズ気質の映画なのではないかと思っています。
あと、スタッフロールに山田裕貴くんの名前を見つけて驚きました。あのキャラクターの声が山田くんだったとは全く気が付きませんでした。
お芝居の上手さはさすがだと思いました。