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<30>準備不足で面接に挑むとどうなるのか?

自らのキャリア・デザインに取り組む時、キャリア上のビジョンを描き、それらを実現する為のプロセスを小さなステップに分けてそれぞれに目標を設定したら、あとは行動するだけです。ただし、注意点もあります。

今回はある人物の事例を紹介したいと思います。ビジョンを実現する為に必要なスキルと経験を得る為には転職だ!と思い立ってすぐに動き出したものの、いきなり落とし穴に直面したお話です。


Aさんの事例

公認会計士のAさん(31)はフットワークの軽さが強みで、いつも考える前に行動するタイプです。これまでも仕事では人よりも早く行動して沢山の成果を上げてきました。公認会計士試験に合格後は監査法人で企業の監査業務に従事していましたが、もともと経営に興味があったことから(会計士を目指した動機もこれでした)、事業会社の経営企画職へ転職をしました。

ですが、希望通りの経営企画部門で経営陣に近い距離で仕事をしてハッピーであるはずが、何か物足りなく、違和感がありました。ただ、それがなぜなのか、そもそも自分が何をやりたいのか分からず悩みました。そして、古い自分をリセットして、自分探しに取り組み、納得感あるビジョンを描いて新しい人生のステージに踏み出す決断をしました。

そして、まずは新たなスキルを得る為に現職から転職をしようと、ご本人としては満を持して、転職に向けて一気呵成に行動を開始しました。

Aさんが希望した転職先

Aさんは何を目指したいと思って、どんな職業への転職を希望したのでしょうか?

事業会社の経営企画部門で経営陣とともに会社を成長させる為の施策を立案して、社内の関係部署に落とし込んで実行していくことを推進していたのですが、一連の取り組みが上手く行って組織が自律的に動き始めるとモニタリングをしてルーティン業務を行う日々となりました。

Aさんはその状況が物足りなかったのです。もっと会社を成長させる為、変える為に、課題を見つけて解決する為の施策を立案して実行していきたい。変革をどんどん進めたい。そんな思いだったのですが、その会社では差し当たってはやることが無くなったのです。

そこでAさんは自分が1つの事業会社に勤めてその会社の為だけに働くことよりも、問題を抱えている会社を次々と支援していきたいのではないかと思い始めました。安定した組織でオペレーションを回すことには関心が低く、組織の変革期に身を置いて会社を改善していく仕事に興味があるということに気づきました。

そんな時、監査法人時代の先輩がPEファンドで企業投資と投資後の経営支援を行っていると話していたことを思い出して、将来は自分もその様な仕事がしたいと思うようになったのです。

そして、その先輩がPEファンドへ転職する為に必要なM&Aの実務経験とスキルを得る為に証券会社の投資銀行部門でM&A業務に数年間従事していたことに見習い、自分も同じキャリアパスでPEファンドを目指す決意をしました。

早速応募して挫折~面接での会話~

そうと決めたら行動力あるAさんは、早速、募集をしていた証券会社のM&Aのポジションに応募したのです。そして、ある大手証券会社の投資銀行本部M&Aアドバイザリー部で1次面接に進みました。ところが、順調だったのはそこまでで、面接で苦い経験をしたのでした。何が起こったのでしょうか?面接での会話を振り返ってみましょう。

~面接での会話~

1次面接に進んだAさんは、M&Aアドバイザリー部のヴァイスプレジデント(=マネージャー、課長)との1対1の面接に挑みました。

***
面接官:どうしてM&Aアドバイザリーの仕事を志望しているの?

Aさん:
(うっ、PEファンドに行く為のステップだとは言えないしなぁ。何と言おうか💦)…ええっと、そうですね…、これまで培ってきた会計や財務の知識を活かして、より専門的な仕事がやりたいと考えているからです。

面接官:
会計・財務の知識を活かせる専門的な仕事は、別にM&Aでなくても、経営のコンサルティングや事業法人の経営企画など他にもあると思うけど、どうして他の仕事では無くてこの仕事を希望するの?

Aさん:
ファイナンスの仕事ではM&Aが最も専門性が高いと思うのですが…

面接官:
そうでもないよ。仕事は雑用も多いし、書類のチェックとか地味な作業も多いよ。M&Aの仕事はあなたがイメージしている仕事と合っていないんじゃないかな?

Aさん:
え、いやそんなこと無いと思います…

面接官:じゃあ、どうしてそうじゃないのか、具体的に説明してくれる?

Aさん:あ、はい… ええと…
***

これではダメですよね。残念ながらAさんは「志望動機が不明確。そもそもM&Aの仕事についての理解もしていない」と言う理由で不合格となりました。準備不足でしたね。しかし、この様な事例は沢山あります。

何が足りなかったのか?

面接のスクリプトを読んでみると、Aさんが答えた志望動機は漠然としており、仕事への理解は表面的で考えが浅いと思われても仕方がないでしょう。
これでは、面接官からの質問に十分に答えられておらず、折角優秀な能力を持っていても、面接を突破することは出来ません。

この答え方の問題点を探ってみましょう。Aさんが述べた志望動機は下記の通りですね。

・M&Aアドバイザリーを志望する理由→会計知識を活かして専門的な仕事をする為

つまり、A→Bと答えています。これが妥当かどうかを確認する為には、B→Aも成立するかどうか見てみましょう。「会計知識を活かした専門的な仕事をしたい」と聞いて、その人が志望している仕事が何かわかるでしょうか?

会計知識を活かした専門的な仕事には、会計コンサル、会計業務改革を推進する仕事、企業価値評価、内部監査、経理財務部門のマネージメント・・・いろいろな仕事が当てはまりますよね。

つまり志望動機は何か?と問われた質問に十分に答えていません。だから否定的に突っ込んだ質問をされています。

Aさんの敗因は、M&Aの仕事に関する理解が不十分で、自分の本音に根差した説明が出来なかったことです。別に「PEファンドに転職する為に必要なスキルを得る為です」と馬鹿正直に言わなくても、M&Aの仕事内容を正確に理解していれば、自分の思いをベースにしながらもM&Aをやりたい理由を説明出来るはずです。

転職では、自己理解とともに仕事への理解も必要なのです。

それでは、次回のコラムでは、Aさんが今回の苦い経験を反省して、別の会社との面接でどう話したのか、ご紹介したいと思います。

(2024年7月1日)
山本恵亮
1級キャリアコンサルティング技能士


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