見出し画像

彗星のこと

彗星が近づいているらしい

ZTF彗星というもので
前回太陽に近づいたのは5万年前
将来的には太陽系から離れて二度と見えないらしい

子供の頃、彗星をみた記憶がある
あれはいつだったか正確には覚えていないが
長い尾を引いた、不思議な光が夜になると現れた

それはいつも見えている星よりとても大きかった

長い間見えていて
少しづつ遠くなって
いつの間にか消えてしまっていた

特に天体が大好きというわけではなかったが
なんとなく空を見上げるのが好きだったように思う

たしか、それを最初に見たのはどこかへ行った帰りの車の中だった
その頃はスマートフォンなんてなかったし
カメラを持ち歩く習慣もなかった
だから、写真は残っていない

インターネット上に、そのときのものらしき彗星の写真はたくさん出てくるが
私の見ていた風景とは全く違う

記憶は曖昧で、脳は何かを脚色しているかもしれない
でもそれが、私が見た彗星だった

当時、何かに出くわして咄嗟に写真を撮るというのは
今よりずっと特別なことだった
そして、残せなかった場面が積み重なっていった
だからこそ強く印象に残っているのかもしれない

見えるものとして残っていないものを
どうにか形にしてみたかった
それでつくったものが「 夜、彗星 」という2種類の帯と小さなパネルだった

植物染料で染めた絹糸
小管に巻く
織る
アップ
帯のイメージ
中心には葛の糸を織り込んだ


きっと、記憶通りのあの彗星を見られることはもうない
でも、それはそれでいいのかもしれない


記事を読んでいただき、ありがとうございます。いただいたサポートは制作のために使わせていただきます。