【演劇感想】ナイロン100℃ 48th公演「Don't Freak Out 」近鉄アートシアター2023/04/01
ストーリーから、坂口安吾「茶番に寄せて」 の一節を連想しました。
このお芝居はまさに茶番で、それも面白おかしい茶番ではなくて、怖いこわい茶番でした。
ストーリーが全て女中部屋とその地下で展開するというのが、とても面白かったです。登場人物たちの、お屋敷の表では見せられない本音や素の姿が、ひょっと露わになる空間が舞台になっています。
さまざまに悲惨な出来事が起きて、「え、どうなってるの、どうなっちゃうの」という驚きで、ぐいぐいひきこまれるのでありますが、
それよりも何よりも、なんと言っても台詞一つ一つの言葉の選択が、それぞれの役にピッタリはまっていて、見ていて自然に作品世界に入り込めるのでした。
戯曲が販売されたら購入したい。文字で読みたいと思いました。
住み込み女中のくもあめ姉妹と雇い主一家、大奥様と奥様、のやり取り。
言葉遣いやしぐさに、現代の生活では見られなくなった家庭での主従関係が、きちんと表現されていて、かつ上辺だけではない本音の応酬がありすごいと思いました。
私が一番怖いと思った人物、葬儀屋クグツ(入江雅人)。
登場始めは、履き物を抱えて部屋へ上がって入った所作が、いかにも業者らしくてよかったです。物語の後半で、口調と言葉使いがガラッと悪くなっているところが怖かった!
それから、天房雅代(奥様)役の安澤千草さん。「しびれ雲」の勝子役でも感じましたが、貫禄あって色気もあり、一見厳しそうで近寄りがたい感じがするけれど、身内の者は大事にして守るみたいな、まさに一家の刀自、という印象で好きです。
「しびれ雲」(KERA・MAP公演)、「イモンドの勝負」を鑑賞した際にも思ったことですが、どんなに荒唐無稽でおかしな設定でも、台詞一つ一つの応酬がきちんとしていれば、観ている方はその世界に入り込めるものなのですね。
もちろん、演じている役者の皆さんの力量に依る所が大きいわけです。
お芝居の最後の場面。くもあめ姉妹が休憩時間にトランプ占いをしている所。
悲惨な展開が続いて、空気が緊張し重たくなったなかで、仲良くしている姉妹の姿にホッと安心しました。
将来の生活に持っていた、ささやかな明るい希望を砕かれた二人。
一生、女中部屋から出られずにこのまま過ごすのか、という諦観と、ご主人一家の秘密を握りこれからどうしてやろうか、という企みに満ちた二人の高笑いで物語は終わります
この時のくも(村岡希美)、あめ(松永玲子) の笑い顔が抜群に良かったです。
暗い終わり方なのに、不思議と嫌な気分は残りませんでした。
作品を見て、住み込み女中という仕事と、明治大正期の警察官の制服について興味を持ちました。少し調べたので、次の記事へ続きます。