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「パンのヒーローが生まれた日」の起承転結が美しい

 タイトルに作品名を入れるのに躊躇ってしまったが、「パンのヒーロー」という記載だけでも、どのキャラクターを示しているのか多くの人が分かってくれると思う。やなせたかし氏が日本の子どもたち(そして子育てに奮闘する大人たち)に遺した宝物、『アンパンマン』のことだ。

 2021/1/18に公式Youtubeチャンネルが開設され、短編映画『アンパンマンが生まれた日』が公開されていた。偶然そのニュースをSNSで見かけたので、私は、軽い気持ちで動画を見ることにした。

 約11分間の物語。可愛らしい子ども向けのアニメの絵柄に癒されながら見ていたけれど、最後に映画を見終わった時の私は、感動していた。物語の起承転結が、あまりにも美しかったからだ。
(※以降、作品の結末まで記載があるので、ネタバレが気になる人は見ないでほしい)

【起】
ジャムおじさんとバタ子さんが、パン工場でパンを作る。パンは街の人たちにも大人気。

【承】
パンを運ぶ荷車は手動なので、特にジャムおじさんの体には応える。しかし、街の人たちのために2人は苦労を惜しまない。

【転】
三日間の嵐で、工場の小麦粉が底を尽きる。パン1つ分しか残っていない小麦粉に「美味しくなあれ」と願いを込めてジャムおじさんがパンを練り、かまどでパンを焼く。空が晴れ、流れ星が工場の煙突に落ち、アンパンマン(赤子)が生まれる。

【結】
アンパンマン(幼体)も、2人と共に街でパンを配り、「人に優しくする/助けることのすばらしさ」に気づき始める。一方その頃、岩山に空から落ちてきた卵からは、バイキンマン(幼体)が孵化。アジトを設計していた……。

 これを、本作品では綺麗に頭から起→承→転→結の順に見せてくる。それがあまりにもストレートに、見事な軌道を描いていることに、私はやけに感動した。

 もちろん、この映画を目にする多くの人が、既にアンパンマンがどんなキャラクターなのか知っている。だからこそ表現を省けることもあるし、反対に絵の中に見せることで、説明せずとも伝わることがある。例えば、バイキンマンの出番はほんの数秒だが、それだけで彼については十分説明が出来ている。
 そうした「初めて語られる部分」と「既知の部分」を無駄なく組み合わせて、この作品は組み上げられている。余計な部分が一切なく、それでいて話の理解を妨げるような説明不足な箇所も見当たらない。(流れ星がなぜパンに命を与える力を持っているのか……等、重箱の隅をつつくようなことを言うことは出来るが、それは野暮だ。)

 もし自分がこの物語を思いついていたら。果たして、こんなに正々堂々とした起承転結の構成で、物語を書き上げていただろうか。もしかしたら、起→承の部分から人を引き付ける自信を持てず、いきなり転から書き始めようと試みるかもしれない。または、冒頭に、アンパンマン(成体)の現在の戦闘シーンを入れて、そこから回想の形で物語を進めてしまうかもしれない。

 しかし、本作品はそんなまどろっこしいことを全くしていない。なんと美しい起承転結。流れをこねくり回すこともなく、物語はまっすぐ一方方向に進んで行く。対象年齢が子どもだから当然のことなのだけれど、折り目正しい起承転結が、私には、気高いものにさえ思えた。「アンパンマンのファンがなにを求めているのか」をわかった上で、堂々と物語が構成されている。そこにあるのは、絶対的な自信や誇り、そしてコンテンツやそれを愛する人たちへの敬意なのだろう。
 長年多くの人に親しまれている作品の、貫録を見せつけられた気がした。

 もし興味が湧いた人は、ぜひYouTube公式チャンネルを覗いてみて欲しい。起承転結のすばらしさに、きっと心が躍るはずだ。




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© 2022 Aki Yamukai

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