【アニメ感想文】私が好きな「ルパン三世」作品
はじめに
幼い頃は、夕方4時くらいからテレビで再放送されていた『ルパン三世 PART2』を観るのが、学校帰りの楽しみだった。
そんな子ども時代を過ごした私は、ごく当たり前のように『ルパン三世』のファンとして育った。(トップ画像は、自宅にある『ルパン三世』グッズの一部だ。)
赤ルパンを観つつ、私は子どもながらに「次元と五ヱ門のどちらが好みだろうか」と悩んだり(私の推しは次元大介だ)、「不二子とルパンは付き合ってなさそうだけど愛し合ってはいそうだ」というような、ませたことを考えたりした。今思えば、真っ赤なスーツで世界中を騒がせる『ルパン三世』は、私にとって「大人の世界への入り口」だった。
だから、2021年に小林清志氏が次元大介役を卒業した時は寂しくて泣いたし(だって、1969年頃に制作されたパイロットフィルム版からずっと彼が次元大介だったのだから……)、2022年の訃報には「ついにこの時が来てしまった」と呆然としてしばらく何も手につかなかった。
それでも、『ルパン三世』という作品の中でルパンたちが存在し続けることに変わりはないし、かつてのキャストが演じたキャラクターは今も生き続けている。
だからこの記事は、喪失にしんみりすると言うよりも、遺されたものを愛し、これからを楽しみにしながら書いたものだ。きっとその方が、『ルパン三世』らしいだろう。
今回は、数ある『ルパン三世』作品の中で、特に私が好きなものを書き綴りたいと思う。
結末に関するネタバレはしていないが、内容については触れているので、気になる方はぜひアニメをご鑑賞になってから再びご訪問いただければ幸いだ。
『ルパン三世 PART1 (TV第1シリーズ)』
日本テレビ系列局で1971年10月〜1972年3月に放送された全23話の日本のテレビアニメシリーズ、いわゆる緑ルパン。今でこそ大人路線が受け入れられている『ルパン三世』も、当時は「アニメ=子ども向け」という風潮だったこともあり、かなり試行錯誤の末に放送されたそうだ。
第1話、つまり初めてのルパン三世お披露目回では、大泥棒であるルパン三世は盗みをせず、かなりの時間をF1レーサーの変装姿で過ごす。
この時、ルパンと次元それぞれが愛用する腕時計が描写されるのだが、実在する高級時計を思わせるリアルなディテールにこだわりを感じる。そこがまた、大人向けアニメとしての矜持とも言える。
私はこの緑ルパンを大人になってから(しかも『ルパン三世』を誰もが知っている状態で)観たので、赤ルパンと違ったハードボイルドな雰囲気に魅了された。それと同時に、「これは当時の時代には早すぎた」とも思った。なんなら、今の時代の方にだいぶ合っている。
特にシリーズ前半のルパンは人殺しもするし、次元とは大して馴れ合わずサバサバした関係を保ち、赤ルパンのようなドタバタコメディもそれほど演じない。そして次元は帽子が無くても銃を命中させられる。お茶の間でお馴染みの「コミカルな記号として機能する要素」が多くないのが『ルパン三世 PART1』の特徴だ。
また、各話タイトルがかっこいいのも好きなところ。例えば……
まるで洋画のサブタイトルのようで、タイトルを見るだけで惹かれてしまう。
先述の通り、「もっと子ども向け/大衆受けを」という軌道修正により、話数が進むにつれ雰囲気も変わり、それに伴いタイトルの様子も変わる。もし、当初の狙い通り最後まで大人向けで行けたなら、どんな内容になっていたのだろう。それが観られないのは悔しいところである。
※次元大介の2代目声優・大塚明夫氏の演技は、この頃の次元大介を思わせるものだった。
初めてCV.大塚の次元を聴いた時、私は「次元だ……」と感極まってうるっと来てしまった。
『ルパン三世 GREEN VS RED』
2008年、40周年記念のOVAとして発表された作品で、ファンの間では「問題作」として知られている。だけど私はかなり好きだ。金曜ロードショーでやって欲しいけど、多分みんな大混乱するだろうと思う。
本作は、そもそも主役がルパン三世ではない。舞台は現代の日本、主役は一般男性のヤスオ(声はラーメンズの片桐仁氏が担当)だ。
なんとなく猿っぽい顔、ルパン三世役として長きに渡り活躍した山田康雄氏と同じ名前の主人公。しかし声も立場もまるで違う男に、初見ではかなり戸惑うのも当然だ。
この『ルパン三世 GREEN VS RED』の世界観の根幹には、かなりメタ的な要素がある。それは、『ルパン三世』には数多くの作品があり、とにかく色んな作画のルパン三世が存在していること。実際、ルパン三世は作品ごとにかなり顔が(場合によっては性格も)変わる。
そうした評判を利用したのが『ルパン三世 GREEN VS RED』だ。劇中では、ルパン三世に憧れ真似をする偽ルパン三世が溢れ、一人一人のしょうもない行い(例:万引きで捕まる)により「ルパン三世」の名前が汚されている……という世界観が描かれている。
こうなると当然、それを許せないと言って騒ぎ出す他の偽ルパン三世たちが現れる。ヤスオの身辺も穏やかではなくなり、ヤスオは自分が真のルパン三世になろうとするが……。
そもそも、私たちが知るルパン三世は正体がまるでわからない。顔でさえ本物ではないし、国籍も年齢もわからない。『ルパン三世 (TV第1シリーズ)』の中でさえ、最初は敵を殺すのも厭わない残忍さを見せていた彼も、次第に様子が変わっていく。
私たちが『ルパン三世』に触れてきた長い時間の中で、観客一人一人が認識している「ルパン三世像」には誤差が生じていると言っても過言ではない。覚えているはずの顔の造形も、記号としての猿顔、ジャケットの色はあれど、細かいところは違うかもしれない。
本物のルパン三世って一体何者なの?
あなたは本物のルパン三世を知ってるの?
長寿コンテンツだからこそ出来る問いかけ、その提示の仕方に、私は惚れ込んでしまった。こんな異端な作品を、よく40周年記念で出したなぁと思うし、周年記念だからこそ効いてくる作品だったんだなとも思う。
『LUPIN the Third -峰不二子という女-』
2012年4月から6月まで日本テレビにて放送された、全13話のスピンオフ。若かりし彼らの出会いも含めたストーリー。
シリーズ初の深夜アニメということもあり、不二子の露出度の高さ、手段を選ばない冷酷さ、大人の色気と狡賢さでいっぱいのダークな仕上がりになっている。
このシリーズ、なにせ絵と音楽が過去作とは違う方向にかっこいい。
それまでの『ルパン三世』と言えば、あの軽快なテーマ曲が使われてきたが、『峰不二子という女』のオープニングテーマは作詞・作曲・編曲を菊地成孔氏が担当した『新・嵐が丘』。重苦しい弦楽器の音色に、橋本一子氏の抽象的な語りが重なる曲だ。軽快さゼロ、不穏さ100%のオープニング。
作画も劇画タッチ(影の描写は版画に近い)な線の太さ、独特な色使いが印象的で、どの場面を切り取っても絵になる。
そこへ来て、峰不二子が主役で彼らの若かりし頃をダークに描くのだから、もう最高。ありがとう……。
まだお互いをよく知らず、自分の目的のための駒として見ていて、警戒し値踏みつつもその場では協力関係を結ぶ……。ルパンと次元と不二子のひりついた関係が非常に大人っぽくていい。『峰不二子という女』のルパンと次元は、ミートボールごろごろのスパゲティなんか取り合わないだろう。(以下の通り、キービジュアルで不二子とルパンは銃を向け合っている。)
主役の不二子の、若さゆえの無邪気な残酷さとしたたかな軽率さも『峰不二子という女』の面白味の一つ。そして、そんな彼女自身にもある不穏な過去がちらついていて、その不気味な影がハラハラを誘う。なんて言うか、その……。フクロウがこんなに気持ち悪く見えることある?
挙げ句、最後まで観れば謎めいたオープニングや訳ありそうなエンディング『Duty Friend』の意味もわかるのだから、なんかもう本当に最高に好きな『ルパン三世』作品と言ってもいい。
『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』
『峰不二子という女』の大人・シリアス路線を受けて始まった、劇場版シリーズ『LUPIN THE IIIRD』の1作目。2014年公開で、私は栗田貫一氏&小林清志氏が登壇する舞台挨拶を鑑賞している。そういう意味でも、思い入れのある作品だ。画面越しでしか聞いたことのなかったコバキヨボイスに、感動を通り越して「あの声って本当に人間から出てたのか……」と不思議な気持ちになったのを今でも覚えている。
さてさて。
『次元大介の墓標』は、劇場版『ルパン三世』としては初めてPG12のレイティングが適用され、それに相応しい(?)血生臭さと艶っぽさを内包したハードボイルドな作風が特徴だ。
次元大介が護衛していた歌姫はステージ上で撃たれて死ぬし、不二子は高級クラブで悪趣味な見せ物にされるし、ルパンと次元は容赦無くスナイパーに狙撃される。キャッチコピーの「あばよ、次元」の通り、次元も大変なことになる。
そうそう、これこれぇ!
こういう、泥臭くヒリヒリした『ルパン三世』が好きなんだよなぁ!
『峰不二子という女』路線が大好きな私は歓喜した。
また、本作の次元大介のカラーリングがいい。これまでの次元は、黒や水色などの印象が強かったが(PART3、ピンクルパンの時は次元も派手でオレンジのシャツを着ていたけれど)、『次元大介の墓標』では緑のジャケットに深い赤のシャツだ。
更に劇中で次元は「自分の服装はジバンシィからフェンディまで幅広い」と発言していて、ルパンに負けず劣らずの洒落者っぷり(しかも本人が意図してそうしている)が表現されているのも、大人向けのこだわりが伝わってきてかなり好印象だ。
この後、『LUPIN THE IIIRD』シリーズは『血煙の石川五ェ門』→『峰不二子の嘘』と続く。それぞれ単発のお話かと思いきや意外な展開を見せ、その出発地点として『次元大介の墓標』は重要な役割を担っている。その位置に、最推しの次元大介が居ることが私はとても嬉しい。
頼むからどうか永遠に
なんやかんや書いたが、このご長寿コンテンツが今も色褪せずかっこよく洗練されて面白いこと、新しい要素を取り入れてもなおブレない『ルパン三世』らしさを保っていることは疑いようがない。
頼むから、どうか永遠に新作を出し続けて欲しい。常に時代のどこかで光り輝いて、誰かを魅了する存在であり続けて欲しい。
私はそんなことを願いながら、これからも『ルパン三世』のファンとして生きていくのだと思う。
追記
2023年、ルパン三世が歌舞伎になった。配信アーカイブで鑑賞した際の感想文はこちらから。
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