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「だって安いし品質もいいじゃん」

 映画『メイド・イン・バングラデシュ』を鑑賞。バングラデシュの首都ダッカ市内の縫製工場で働く女性たちの物語です。ドキュメンタリーかと思うほど真に迫る映像ですが、台本に沿って役者が演じています。低価格の割に品質が優れているというので評価されている日本のファストファッションブランドの多くがこうした工場で、彼女たちの労働で作られています。貧困と搾取と無知と人権侵害と男尊女卑と官僚の腐敗と……。何から何まで劣悪極まる環境下で忍従を強いられている彼女たちが、組合を結成しようと奮闘するリーダーの下に集まります。使用者側の脅しや、また横暴で怠惰な男たちの妨害に直面しながら、それでも戦い続ける話です。
 アジアからの技能実習生を非人道的に酷使する実態が報じられた日本国内の一部の縫製工場と二重写しになりました。ディケンズの描く19世紀の英国でも、明治期の日本でも、繊維産業は初期資本主義の代表的労働集約型産業です。しかしこの映画を見ていると、果たして今のバングラデシュがかつての英国や日本と同様に、やがて人権が保障され彼女たちが今よりもましな将来を描くことができるようになるのか、疑問を抱かざるを得ません。貧困は多少は改善されるかもしれないけれど国民の多くは決して豊かにはなれない。先進国の、大企業の大掛かりで巧妙な搾取の軛から抜け出すことは至難の業だと思いました。今や日本のような「先進国」内で格差が拡大し貧困層が増大する中、安価な衣料品は一定の根強い需要があります。それゆえ例えば不買運動などの消費者の連帯行動によって彼女たちの待遇改善を支援することは一層難しくなっているのです。
 「だって安いんだから」というのは、一体どうして安いのかを考える契機になるでしょう。しかしそれを知ったからといってより安いものを買おうとする生活防衛を批判することは容易ではありません。貧しい者が貧しい者を貧しいままの状態にする。国内的にも国際的にも格差が固定されていく構図がわかりやすく描かれている映画だと思います。

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