『平成敗残兵☆すみれちゃん』1-4巻 アラサー独身女子の前に敏腕高校生プロデューサーを吊るす地獄のような漫画
ごきげんよう。神奈川県シカゴ市在住、意識低い系バ美肉VTuberの夜御牧れるですわ。
里見U『平成敗残兵☆すみれちゃん』、1巻から4巻まで既刊一気読みしました。
すしカルマ先生でバズった本作ですが、「#ギャグ・コメディ」とヤンマガWebでタグ付いてる割には意外と情報量が多いです。頭使わなくても楽しめるけど、じっくり読まないと読み落とす表現が多々ある。
スパダリの卵・泉雄星
青年誌掲載なのでか第3巻(第17話~)からハーレム展開(ただし主人公は高校生男子で取り巻きはアラサー女子ばかり)が始まるのですが、その辺から雄星プッシュが強化されます。作者、ちゃんと各キャラがなんで主人公に惚れたのか設定してるので、いきなり矢印が生えたな?!みたいなのはひよりを除きそんなにないです。
初手は芸能事務所の社長も務めるマルチタレント・ファムファタ任三郎。
ファムファタ女史は成功者のバリキャリだし遊び相手には困らないだろうしなので、雄星争奪レースには参加しないでしょう。雄星いじりは将来いい男になるから育てたろぐらいの感覚でしょう。人気投票からもはしょられてるし。というか、平成敗残兵というタイトルでバリキャリ落ちだったら色々興ざめでしょう。
同級生のひより評。
同じく地頭が良いという表現ですね。高校生なので受験で同程度の学力の生徒が選別されているはずですが、どの教科の話なのかも書いてないしなあ。
ちなみにひよりちゃん、主人公と歳が近く第6話の初登場時点から雄星に惚れているように描かれてるんですが、登場人物が多すぎるのか出番が少ないです。人気投票からもハブられたしな。
次に同人AV制作会社の社長にして敗残兵2号・あゆみ評。
比較対象がすみれなのが気になりますが、ファムファタに続き2人目の経営者から頭の良さを評価されています。中小企業の社長は採用活動にかなり深く関与するから人を見る目はそれなりにあるだろうな。
これで同人アイドルすみれのプロデューサーとしても着々と実績を積み上げているので、雄星は学生起業家相当の仕事のデキる男として描かれているわけですよ。要するにスパダリの卵ですよね。
包容力ばつ牛ンの男・泉雄星
主人公の雄星が敗残兵1号のすみれをどう思っているかは第6話に描かれているのですが、下記の通り。ちなみに、すみれのいないところでの友人との会話の一節です。
完璧じゃないですか? 自分より遥かに実力のある相手と同じ土俵で戦って退場させられた人に半端な褒め方をしても響かないです。
夢破れた31歳でその日暮らししてる自己肯定感低めのお姉さんの前に、大人げないところをすべて理解したうえでなお格好よくいて欲しいと言う敏腕(ここすごく重要)高校生プロデューサーが現れたら落ちるのもやむなしなんじゃないでしょうか。
VTuber活動とは別の遊び場の話ですが、過去何度か「あなたが言っているのは『うちの子の好きなところ』じゃなくて『あなたの理想の女の子』の話ですよね」と言いたくなったことのある私としては、雄星のすみれ評は最適解かと思います。
「私のどこが好きなの?」という問いは、こと自己肯定感低めの女子の場合は「あなたにとって私は本当に価値があるんですか?」という不安によるものなので、そこが解決できれば別に特技とか長所じゃなくていいのですよ。
300万円事件の主犯・東条すみれ
まーた全然別の作品から引用してしまうのですが。
第11話「揺蕩う女」(単行本第2巻収録)ですみれがある重大事件を起こします。にも関わらず雄星はすみれを見捨てずプロデュースし続けることを選択し、しかも第17話「スカウトする女」(単行本第3巻収録)ではかなり苦しい言い訳をして擁護している。
すみれの犯罪はヤミマキさんも解せないし話の都合なんじゃないか……という印象。ただ、掲載紙のヤンマガには治安の悪い作品が多いらしく、その中だとすみれの行為は比較的微罪らしいのですよね。
さて、雄星はすみれの行為についてかなり苦しい言い訳を債権者のファムファタにする訳ですが……これが真実かどうかはどうでもいいし、雄星自身が信じているかも実はどうでもいいんじゃないかなとヤミマキさんは思います。
この件で重要なのは、すみれがやらかしても雄星は(対外的には)味方でいてくれるということなのです。本当に旦那候補として強すぎるよこの男。そのうち借金の連帯保証人にでもなりそうなのが怖いけど。
こちらも読み返しましょう。
「授業中スマホいじってるか寝てる」はしんどい……。つまりすみれのプロデュースのために学業を半ば捨てているっていうことですよ。家から近いところ選んだとかで学校のレベルが雄星より低いという可能性も大いにあるが……。鬼滅に例えると、雄星が炭治郎ですみれが禰豆子なんですよ。そのぐらい雄星は貴重な高校生活をすみれのために割いている。
余談ですが、ファムファタってすみれに近いタイプだと思うんですが、それでも第17話のくだりですみれの行動原理を理解できないんですね。
義によって立つ男・泉雄星
オーブフォントを買ったので使ってみたかっただけです。
上のセリフも解釈が割れるので、うかつに持ち出すと「また戦争がしたいのか、あんた達は!」ってなるやつ。
『平成敗残兵☆すみれちゃん』という話は、高校生の雄星がいとこのすみれに同人アイドル界の頂点を取るという野望を語り協力を申し出るところから始まるのですが、そのときのセリフがこれ。
嘘だッ! この分かりやすい目的がただの口実だっていうのがまずこの漫画のおもしれーところなんだな。だいたい300万円事件を起こしてもすみれを切らない雄星が、金のためにすみれを脱がすわけないでしょう?
p.7の「俺、学校に友達あんまいないんだよ」も半分口実だろう。
金と友達の件は、ヒロインのすみれがいつもお金に困っている落ちぶれた夜職で日中遊ぶ友達もいないので、その目線に合わせて話を切り出してるだけですね。人間は価値観の合わない相手の話を聞かないからな。
が、すみれは雄星のオファーを蹴るのです。雄星はしまいには泣き出してこんなことを語るわけですよ。
すしカルマ先生なんかは事あるごとに泣いてますが、雄星が泣いたのはこの回ぐらいじゃないかな。
上のくだりはやもするとすみれを落とすために最終手段として泣き脅しに出たと読みかねないのですが、恐らくそんなことはない。高校生の男の子が一世一代の大勝負として考えた作戦が潰え、憧れのお姉さんだった人が立ち直ることなく朽ちていくのが悔しくて泣いているわけですよ。泉雄星というのは従姉の為に涙を流せる男なんです。多分ね。
大体、第1話の雄星はかなり強引で、抽選で決まる同人写真集即売会の売り手枠を確保してからすみれを口説きにかかっています。
また、先の「俺、学校に友達あんまいないんだよ」発言はすみれの「あのさ、お前毎日来るのな」という声に対するアンサーなのですが、話の都合というものを一旦脇に置くと、人間は日常的なことをわざわざ口に出さないので、おそらく雄星がすみれの部屋に日参するようになったのはここ最近のことなのでしょう。
つまり日程的に他のモデルを探す時間はないという段階になってからすみれにアプローチしていると推測できるわけですよ。失敗は許されないので、少しでも多く外堀を埋めておきたかったからでしょう。そして東条すみれという女は情に厚いのです。
連載一話なんて単行本やWeb掲載から入る読者に対してはここで気が引けないと即切られる可能性大なのでかなり力を入れて描かれていると思いますが、しかしよくできたエモシチュだなあ。
いーなーブスは漫画がうまくて
一部で有名なすしカルマ颯子先生の長歌ですが、これよく読むとすしカルマ先生の価値観と真の自己評価がなんとなく分かります。
すしカルマ先生はこの時点ではぼっちなので完全にブーメランです。
「バカな男にモテてもしょうがないから」とも毒づいていますが、嫉妬相手の女性作家には同性のファンも付いています。が、(少なくとも作中では)すしカルマ先生の席には「バカな男」しか来ていません。雄星に対する第一印象が「絶対絵でシコらんだろコイツ」だしな。作者、ネーム考えてるとき「互助会票乙」と浮かんだけど女オタクじゃないと伝わらないので消したんじゃないかなと妄想。
これが性格が良いか悪いかというのは割とどうでもいいです。Xの愚痴垢に書いてるでもなし、内心の自由。
問題は、すしカルマ先生の中で「何かしら人に認められる能力がないと自分には存在価値がない」という信念が強すぎることなのですよ。
で、たぶん「自尊心を保つのに必要なステが素の自己評価では足りない」のです。だから常に自分を持ち上げて他人を下げないと自分を保てないのでしょう。我に返ると引用文の次のページみたいにヘラる。
人の長所を素直に認めるにはある程度の心の余裕が必要なのです。
で、すしカルマ先生のコンプレックスに対して雄星は相性が良すぎる。雄星のすみれ評を読み返してみましょう。
大人げないオバサンだって分かってるけど、それでも笑顔でいて欲しいというのが雄星なのです。自尊心ボロボロでいつも強がっていないと自分を保てない女にこれは劇物でしょう? 即落ち2コマだろこれ。
すしカルマ先生のデート準備ってそこまでおかしくなくない?
第30話「天国から地獄女」は、すしカルマ先生が雄星からのアポをナンパだろうと推定したままで浮かれてデートコーデ一式新調しちゃうところから始まります。これも散々ネタにされてるんですが、このくだりもよく読むとそんなにおかしくなくないか?
まず初回面接の時点ではすしカルマ先生は雄星にそこまでお熱を上げてはいない。
第28話の末に例の、雄星に関してのすしカルマ先生の怪文書が掲載されているんですが、すしカルマ先生これなんでSNSに投稿したかっていうと、おそらく「自分はナンパの手ごろな練習台として声かけられただけで、後でもっと年の近い女に行ったんだろう=雄星とはもう二度と会うことはないだろう」と踏んだうえで鍵パカ垢で全世界に公開したと思うんですよね。その前の自称・漫画原作者と同じ扱いだろうし、名刺なんていくらでも偽物作れるしな。もともとこういうSNS芸やってるのか、やらかしで壁打ち移行秒読みなのかは分かりかねますが。
だから第30話の頭が「あの高校生本気だったのかよ‥?」(※原文ママ)になるわけです。この辺でポス消ししてそう。
上記のくだりはこれ文字通りでしょう?
パッとしない男との面接をセッティングされた婚活女子の気持ちを考えましょう。服なんか適当でいいかなと思いつつ服見に行ったらなんか素敵な服見つけちゃったし、お洋服に合うように髪も切らなきゃーみたいな感じでしょう。冴えないおっさんと会うことにウキウキしてお洒落したんじゃないんですわ。パッとしない男でも成立するシチュなので、同様に恋愛対象外の男子高校生でも成立する。
そもそもすしカルマ先生ってかつてはアイドルやってたぐらいなので、可愛らしく着飾りたいという欲求は人並みにあるはずなのですよ。金欠でセーブしていただけで。物欲のリミッターを外したのがたまたま雄星のアポだったというだけでしょう。
脱衣麻雀編のてろてろワンピはちょっと擁護できないが。
デートコーデ一式新調するすしカルマ先生が荒唐無稽なギャグに見えるとしたら、自分のテンションを上げるためのお洒落という概念がインストールされていないからでしょう。
というか、第27話で地も服も芋の男オタクと地は芋っぽくてもがんばってお洒落してる女オタクを描き分けてるので、この辺のファッション感覚の違いは作者氏ある程度計算して描いてるんじゃないかな。だとしたら意地が悪いなあ(誉め言葉)
で、すしカルマ先生は実際に雄星と会うと、雄星との将来設計まで考え始めるわけですが……この時点ではナンパの可能性大と考えてるのでやむを得なくないか?? 高校生のナンパを真に受けるかは別として、33歳独身女子が男と付き合うかどうか考えるとき、結婚を考えられる相手かどうかは当然ジャッジするだろう? すみれなんか颯子と再会して早々に結婚したか聞いてくるし。
高校生のひよりが手が触れただけで結婚まで考えてたらほのぼのとしたギャグですが、33歳独身女子のすしカルマ先生がナンパから結婚に連想を飛ばすのは切実な問題なのですよ。
ナンパ以外にもアム○ェイや宗教の勧誘の可能性もありますが、漫画の話として面白くないのでダメなんでしょう。
この段階でのすしカルマ颯子先生は「まだ」比較的ふつうの事を言う女なんだよなあ。
しかし泉雄星……恐ろしい子……!! じっくり読むとめちゃくちゃしんどい(オタク的用法)のですが。
バ美肉VTuber夜御牧れるは『平成敗残兵☆すみれちゃん』を応援しています。