和田秀樹『70歳が老化の分かれ道』詩想社新書
和田式受験勉強法による受験指導で有名であるが、現在は高齢者専門の精神科医として、マスコミに顔を出すことがあるので、名前だけは知っている人も多いと思う。
著者は、人生100年時代が語られ、100歳も夢物語なのに、健康寿命は男女とも75歳に届いていないことを取り上げる。70代をうまく生きていかないと、長く生きしてもよぼよぼしたり、介護を受ける期間の長い高齢者になってしまう。
人々を長生きさせる医療と、健康でいさせてくれる医療は違い、老人は、コレステロールが高い人ほど元気で、血圧や血糖値が高めのほうが頭がはっきりしていると、30年以上の臨床経験から述べている。旧来型の医療常識に縛られずに、70代をどう生きるかで残りの人生が大きく違うと主張する。
70代は人生のターニングポイントであり、70代の「老いと闘う時期」と、80代以降の「老いを受け入れる時期」の2つに分けることができるとも述べ、70代はまだ老いと闘える最後のチャンスとも述べる。
脳機能、運動機能を維持するためには、「使い続ける」ことの重要性を強調する。いちばん怖いのは「意欲の低下」であり、男女とも前頭葉の機能と男性ホルモンの活性化であるとも述べる。
「引退」はしてはいけない。アルバイトや契約社員など、どのような形でも働くことから引退する必要などない。もちろん仕事ばかりでなく、町内会の役員などや、ボランティア活動で社会参加することも選択肢である。
ただし、歳をとってから働き方は、若いときのものと変えるべきであり、会社に本当の意味での「相談役」というポストを会社につくることを提案する。これは、東大名誉教授の畑村洋太郎さんの発案とのことである。
仕事上の悩み事、人間関係の悩み、モラハラ、パワハラ問題などを抱えた社員の相談相手になれば、利害関係もないので、自分の経験を踏まえて、若い人に有益なアドバイスを送ることができると述べる。
運転免許は返納してはいけないとも述べる。高齢者の運転事故件数は実際には少ないのに、マスコミは「ブレーキとアクセルを踏み間違えた」と報道するが、認知症が原因で踏み間違えることはほぼあり得ないと断言する。高齢者の運転事故のほとんどは薬による意識障害が原因であり、薬害といってもよいとも述べる。
幸せの老後は人それぞれではあるが、豊かな人間関係こそが、晩年を幸せなものにする要素であると述べる。70代になったら、自分のことだけで生きるのではなく、まわりの人のために尽くす生き方に少し変えていったほうがいいのではと述べる。
著者は、他者のためにやさしくなったと感じることが、自身にとって幸せだとしみじみ感じると述べる。結局は、人生の中でいかにりっぱなことをしてきたかではなく、いかに社会的に弱い立場の人などにやさしくできたかで人生は決まるのではないと思う。
医療の常識的な見解と離れているところもあるが、むしろ高齢者の臨床経験にもとづく著者の見解のほうが、高齢者にとって有益ではないかとも思う。実に腹落ちする内容であった。