ジェイソン・ドーシー、デニス・ヴィラ『Z世代マーケティング 世界を激変させるニューノーマル』ハーパーコリンズ・ジャパン
本書は、米国の調査会社CGKに所属する著者によるZ世代についての解説したものである。所属会社での調査等を踏まえて書かれていることから、米国の状況を知るためには有益ではないかと思われる。知見の共有を目的としている。
Z世代とは、およそ1996年~2012年に生れた世代に対する名称であり、最近、よく使われることから、聞いたことがあると思われる。それ以前の世代と、思考や行動が大きく異なるとの分析がされ、マーケティングを行う場合には、必ず知っていないといけないとされる。
米国のZ世代は、9・11の記憶がない。歴史の授業や親の体験談、YouTubeの動画でしか知らない。このことは米国での世代差をより顕著にしている。また、成人となる重要な時期のパンデミックによる恐怖や不安、脆弱さ、混乱を味わうことによる影響は未知数であるとされる。
Z世代は、安価なモバイルテクノロジーをいつでも使える。「接続優先世代」は、同じ国に住む50代よりもイギリスやインドの15歳とのほうが共通点が多い可能性がある。
さまざまなオンデマンドサービスや安価なモバイルテクノロジー、政治の二極化といったような大変動を全員が経験しているわけだが、Z世代の知る世界はこれだけで、しかもストレスを抱えながらも、この世界をうまく活用している。順応する時間は必要なく、上の世代が理解に苦労するか文句を言っているあいだにテクノロジーを使いこなしている。
世界的な大不況と学費ローン、ダイバーシティとインクルージョンという新たな世界観と社会運動、銃乱射事件と国内テロ、スマートフォン・音声検索・タブレット・適応型ソフトウェアの学校導入による幅広い学習機会、テレビからYouTube・ネットフリックス・TikTokへのシフト、ネットいじめなどのメンタルヘルス問題・運動や健康をモニタリングできるデバイスなどが、Z世代を巡るトレンドである。
スマートフォンは常時接続状態にあり、ソーシャルメディアに依存している。プラットフォームを使い分ける。グループイベントはフェイスブック、自撮り動画・写真はスナップショット、好きなブランドのフォローはインスタグラム、友人との集合時刻設定はショートメッセージ、友人とのビデオチャットはフェイスタイム、購入商品の情報はレビューアプリである。
Z世代の年長層はニュース速報をツイッターに頼っている場合も多い。フェイスブックは古いと映るらしく、親世代以上の親戚が使っているから登録しないとの回答もある。
Z世代は、安定した仕事、経済的自立、借金の回避を望んでいる。その目標をどのように達成するつもりか、意向は割れている。自分の会社を立ち上げたいという回答は大きな割合だが、半数以上は伝統的な仕事に就く考えだ。
大学へ行く願望があるが、借金を背負わずに卒業したいという考え方は、Z世代全体に広がっている。大多数は、大学の授業料を奨学金か在学中のアルバイトでまかなうつもりだ。フィンテックアプリは、教育領域でもZ世代を助けている。
Z世代の12%は老後資金を貯蓄しはじめている。社会保障を受けられず、希望どおりの老後を過ごす資金を自前で確保することとなる可能性に気づいている。貯蓄をまだ始めていないが、状況が許せれば最優先で取り組むべきだとの回答も69%はある。
2018年、ナイキは2年前に有色人種差別に抗議して、フットボールのリーグから追放されたコリン・キャパニックを広告に起用した。最初、批判を浴びたが、数週間後に株価は上昇し、消費者からのエンゲージメントは大幅に上昇した。Z世代から絶大な支持を受けたからだ。Z世代はダイバーシティやインクルージョン、社会正義を購買行動の決め手にする。
ナイキはロイヤルティの高い貴重な長期顧客の一部が離れることを承知で、批判を恐れずに、文化と関わりを持つブランドとして自己定義する道を選んだ。きわめて重要な購買層であるZ世代のパートナーになれるのは、ナイキだと証明するためだ。
Z世代という購買層を引きつけるカギは、次の3点である。
①価格。出費に値する、有用性、耐久性などに相応の価値がある。
②パーソナライゼーション。コンテンツも広告も個々に合わせて高度にカス タマイズされたものを期待する。
③社会的責任。利益追求だけでなく世の中の役に立つことを示すことを要求する。
中古衣料は、Z世代では裕福か否かにかかわらず支持を伸ばしているのは見逃せない。コスメは化粧品店に行って無料でメイクしてもらう時代は終わり、YouTubeやTikTokのハウツー動画を頼る。ゲームはプラットフォームにあるオンラインコミュニティに接続されており、友達とのつながりを維持する手段だとみている。
料理番組はYouTubeで人気が高い。デリバリーアプリで出かける店や取り寄せる料理を選ぶことができる。キッチンカーはすっかりおなじみの存在となっている。実店舗で買い物をする機会が少ないので、初回時も、リピート時も、Z世代の琴線に触れることがきわめて重要となっている。社会的大義の後押し、自撮りしたくなるビジュアル的魅力、公共交通へのアクセスの良さなど。
Z世代が購買するきっかけは、
①個人的なつながり(家族や直接の知人)からの紹介
②ブランドやプラットフォームへの信頼
③ソーシャルメディア、セレブ、インフルエンサーからの情報
からであり、広告だけでは効果を望めない。
Z世代につながるチャネルはモバイル端末が群を抜いている。これからは、「モバイルフレンドリー」では不十分で、「モバイルファースト」でなければならない。インターネットは娯楽が利用目的第一であるから、ブランドが楽しげか、どのようなエンターテイメントの要素があるか、楽しませ夢中にさせる方法を理解しておかないといけない。
始めての購入を決意させる5つの要素が特定された。
①価格
②購入の容易さ
③ネット上の評価とレビュー
④返品の容易さ
⑤商品を購入・使用したことのある知人の存在
Z世代に影響をおよぼすと考えられるトレンド等は
①車と輸送の進化
②仮想現実(VR)と拡張現実(AR)
③高齢化と世代交代
④AI、IOT、コネクテッドデバイス、消費者向けテクノロジー
⑤業務自動化(AI、ロボット工学、IOTなど)
⑥医療のブレイクスルー
⑦宇宙旅行
⑧グローバルな課題(世界人口の増加、気候変動)
⑨ブロックチェーン
⑩大学改革
Z世代との関係づくりのためには、次のポイントを考えることができる。
Z世代とのつながりをつくるためには
①Z世代の目に世界はどのように映っているか考える
②自社の従業員または顧客であるZ世代から体験を聞く
③Z世代のいるところにリーチする
Z世代の消費者と擁護者を獲得するためには
①有意義な価値とエンゲージメントを優先する
②ブランドやチームの人間性でZ世代とつながる
③Z世代の学習意欲と動画志向を利用する
Z世代の従業員の才能を引き出すためには
①社員紹介制度を利用する
②つながりを構築および維持しやすくする
③勤務初日から能力開発プログラムを提供する
④継続的でオンデマンドな研修を行う
著者は、Z世代とともに迎える未来は刺激に満ちているという。その刺激を楽しんでほしいという。Z世代の時代ははじまったばかりである。Z世代より上の世代は、Z世代に関心を持つとともに、どれだけ未来を楽しめるかが鍵であるように思われた。
日本では9・11を世代を特徴づける出来事と位置づけることは難しいかもしれない。スマホ中毒は、若者より中年女性のほうがひどいように思える。それらの違いがあるかもしれないが、全体として見れば、日本のZ世代にもほぼ当てはまるように感じられる。参考となることばかりである。
本書での世代区分は次のとおりである。およその生年である。
Z世代(i世代) 1996~2012
ミレニアム世代(Y世代) 1977~1995
X世代 1965~1976
ベビーブーマー世代 1946~1964
伝統主義者世代(沈黙の世代)1945以前