
世界でいちばん透きとおった物語(杉井光)

昨年(2023年)のテレビ番組などでずいぶんと話題になったそうです。ぼくが勝手に師匠筋と思っている児童小説家、後藤みわこさんがブログ記事で書いているの拝見して買っておいたのですが、実際に読んだのは1年後でした!
カテゴリとしてはミステリなのでしょう。
病死した大物ミステリ作家が『世界でいちばん透きとおった物語』という未発表原稿を遺したらしい。それを知った遺族から、その婚外子(非嫡出子)である主人公が、その原稿を探すように命じられます。主人公から見れば、故人は自分の母親と自分を捨てた身勝手な男です。とは言え、一度もあったことがないせいか、嫌うでもなく憎むでもなく、自分とは無関係だと思っていました。しかし原稿を探す過程で故人のことを知り、次第に故人を悼む気持ちが芽生えてきます。
それにしても、『世界でいちばん透きとおった物語』とはなにか?
実は、その仕掛けというかトリックというか謎を解き明かすヒントは最初から読者に提示されていたのですね。このからくりには驚きました。
種明かしをされてみれば、「そういえば!」という気づきや違和感に思い当たりますが、「まさかねえ」という感じです。
かといって「騙された、やられた」という悔しさはなく、素直に感心するばかりです。
まあ強いて言うなら、仕掛けを施した理由や前提の意味づけが多少強引な感じがしたころでしょうか。
病気の後遺症で、そんなことが起こりうるだろうか? という疑問は残ります。
専門家じゃないので「知らんけど」というところですし、フィクションなんだからいいか、という気もするし。
他にも、「今どき60歳前後でパソコンも使えないようなIT音痴がいるだろうか?」くらいの苦情は言いたい気分もありますけどね。
まあ、それもまた、フィクションなので。
フィクションというなら、この小説そのものがメタ視点的に出来上がったものだという読み方もできます。この物語は、この小説の成り立ちそのものである、と……。
と書いているうちにあわせ鏡を覗き込んでいるような気がしてきました。