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サクラマスと滝と生と死と。

サクラマスが好きだ。見た目はカッコイイし、食べて美味しい。北海道であれば最も身近な魚といっても過言ではないほどにどこにだっているし、サクラマスの河川型であるヤマメだって渓流の女王と呼ばれるほどに美しい。川で大きくなれなかったヤマメが海へと出て大きなサクラマスになって帰ってくるエピソードも好きだ。

まだ銀色のサクラマス

道東ではそんなサクラマスが5月中旬から8月にかけて海から川へと戻ってきて、各地で懸命に滝に向かうジャンプを目にする。

滝に向かって飛ぶサクラマス

一度はこんな写真を目にしたこともあるかもしれない。
力強く水面から飛び出した魚が轟々と流れる滝に向かっていき、ほとんどはうまく流れに乗れずにそのまま押し返される。ときたま太い水流にのりあと一歩のところまでいくが押し返される。ずっと見ていると本当に極稀に乗り越えて上流へと泳いでいくサクラマスを見ることができる。
あまりの懸命さに、思わず手に汗握って「頑張れ!」と応援してしまうシーンだ。流れに逆らって、落差に負けずに、上を目指す姿というのは頑張る人間の姿を重ねずにはいられないのかもしれない。

でも実は、この滝の下でひっそりと命を落としているサクラマスがいることはあまり知られていないだろう。
多くのサクラマスが滝登りに挑戦するそのすぐ下の川の中に潜ると、水が滞留するところにたくさんの傷ひとつない死体がある。

サクラマスの死体

これらは皆、滝登りに失敗して打ちどころ悪く死んでしまったサクラマスだ。見るたびに、滝に魚道があればこんな事にならずに命を繋げたのかもしれないと暗い気持ちになる。しかしまた同時に、サケマスたちの繁殖行動が砂利を動かし川の地形を作るのと同様に川によって殺されたサクラマスもまたほかの生き物の栄養になり川の生態系を支える栄養になるのだろうと思う。

多くの人が滝登りを見て感動して魚を好きになってくれるだろう。
でもその下で滝によって殺された無念のサクラマスがいることを知っておいてほしいと思うし、そうして滝と共にサクラマスが生きている事も知っておいてほしい。命の繋ぎ方は、子孫を残すだけではないのだ。

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