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古事記神話と言霊信仰 〜Episode.0


古事記神話と言霊信仰

言霊信仰とは、 「言葉には霊的な力が宿り、現実を変えることができる」 という考え方であり、『古事記』の神話においては 発話することで事実を決定し、世界を作り変える力 があるとされていました。スサノヲとアマテラスの誓約(ウケヒ)の場面を中心に、言葉の持つ力がどのように作用したのかまとめていきます。


1. 言霊信仰とは?

言霊信仰とは、 「言葉が単なる音の連なりではなく、現実を変える力を持つ」 という思想で、日本の神話に深く根付いています。『万葉集』には「言霊の幸はふ国(ことだまのさきはうくに)」という表現が登場し、 「言葉を大切にすれば幸福が訪れる」 という価値観が古くから存在していました。

世界各地の神話や宗教にも言霊信仰に類似する概念があります。

  • ユダヤ教の創世記:「神が『光あれ』と発したことで、光が生まれた」

  • 呪術や祈祷:「言葉を使って病を癒やす」「呪文を唱えて呪う」など

『古事記』においても、 「言葉が現実を作る」 という思想が、神々の物語の随所に見られます。


2. 「詔り別き」と「詔り直し」

『古事記』の神話には、 「詔り別き(のりわけ)」「詔り直し(のりなおし)」 という2つの重要な行為が登場します。これらは 言葉の力によって、世界の出来事を決定・修正する ことを示しています。

(1) 詔り別き(のりわけ)とは?

「詔り別き」とは、 「言葉によって物事を区別し、確定させる行為」 です。これは、スサノヲとアマテラスの 「ウケヒ(誓約)」 の場面で重要な役割を果たします。

詔り別きの具体例

  1. スサノヲの潔白を証明するための「ウケヒ」

    • スサノヲの剣 を材料にして、アマテラスが三柱の女神 を生む

    • アマテラスの勾玉 を材料にして、スサノヲが五柱の男神 を生む

  2. アマテラスの「詔り別き」

    • 「持ち物の所有者が、その子の親である」 と発言し、親子関係を確定

    • 結果:「五柱の男神はアマテラスの子」「三柱の女神はスサノヲの子」 という関係が成立

→ ここでは、 「誰が親であるかは、事実ではなく、発言によって決まる」 という考え方が反映されています。

(2) 詔り直し(のりなおし)とは?

「詔り直し」とは、 「言葉を発することで、悪い出来事を良い方向へ修正する行為」 です。

詔り直しの具体例

  • スサノヲが田畑を荒らしたり、無礼な行為をした際に、アマテラスは 「それは田を広げるための善行だった」「これは祭祀の一環として行われたことだ」 と発言

→ つまり、「悪い行いでも、言葉を使うことで善行に変えられる」 という思想が示されています。

この「詔り直し」は、 「現実の解釈を言葉の力で変える」 という言霊信仰の核心的な概念を反映していると考えられます。


3. ウケヒとは?

ウケヒとは 「ある行為を行い、その結果によって神意(神の意志)を占う儀式」 です。言葉を用いた呪術の一種であり、 「発言と現実を結びつける」 という点で、言霊信仰と深く関わっています。

ウケヒの具体例

  1. スサノヲのウケヒ

    • 目的:「自分は潔白である」ことを証明する

    • 方法:神々を生み、その性別で占う

    • 結果

      • スサノヲが生んだ神が 男神だった → 「だから自分は潔白だ」と主張

      • しかしアマテラスが「生まれた神の親は持ち物の所有者」と言い直し、スサノヲの主張を覆す

  2. コノハナサクヤヒメのウケヒ

    • 目的:夫(ホノニニギ)の子供を身ごもったことを証明する

    • 方法:燃え盛る産屋の中で出産する

    • 結果:無事に出産できた → 「この子供は間違いなく夫の子である」と証明された

このように、ウケヒとは 「言葉で神意を問う」 行為であり、 言葉によって現実を確定させる力がある ことが示されています。


4. 言霊と日本神話の関係

『古事記』の神話では、言葉の力が世界を動かす という思想が随所に見られます。
特に、

  • 言葉で 「物事の真実」を決定する(詔り別き)

  • 言葉で 「悪い出来事を善いものに変える(詔り直し)」

  • 言葉で 「未来を予測し、神意を占う(ウケヒ)」 という形で、 発話行為そのものが現実を作り変える力を持つ ことが強調されています。


この論文では、 言葉が単なるコミュニケーション手段ではなく、世界の秩序を決める神聖な力を持つものとして扱われていた ことを明らかにしています。これは現代の心理学における「自己暗示」や「ポジティブ・アファメーション」とも共鳴する部分があり、現代社会においても 「言葉の力」 を再認識するきっかけとなるでしょう。

参考文献 :
岸根敏幸「古事記神話と言霊信仰(後編)」福岡大学人文論叢 第49巻第1号, pp. 413-453.

5.やまとことば姓名鑑定と古事記の言霊信仰

やまとことば姓名鑑定を『古事記』の 言霊信仰 からどのように説明できるものかを考えてみると以下の3つに集約できそうです。

  1. 「詔り別き」 → 名前の音で個性や適性を決定する

  2. 「詔り直し」 → 言葉の力でネガティブな要素をポジティブに変える

  3. 「ウケヒ」 → 自分の名前を発することで、言霊の力を最大限に引き出す

「あなたの名前が持つ言霊の力を知ることで、人生をより良い方向へ導く」 というやまとことば姓名鑑定は、古事記の言霊信仰に端を発しているとも言えると思います。

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