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晴登雨読『日本山岳史』
晴れの日は山に登り、雨の日は山を想う。山岳の書籍を読んだ日々を回想する「晴登雨読」。
令和の今だからこそ、語り継ぎたい一冊が『日本山岳史』。
「男の隠れ家」などを出版する時空旅人シリーズの一冊で、2015年に発売されたムック本。全120ページと短く、大部分は写真のグラフィック。それでいて読み応えがあり、内容も深い。
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近代登山の黎明期となった北・中央・南アルプスにまつわるエピソードを中心に、谷川岳、富士山、天狗岳など、日本のオールスターと呼べる山の歴史を紐解いている。
また、先達の歩みがうかがえる山道具の歴史は、現代と比べることで、より一層の畏敬の念や、道具への感謝が生まれてくる。「山にまつわる物語」と題した項では、古今東西の山岳書籍が並べられ、非常に貴重な資料となっている。
肝心の山岳については、紹介されている山が少ない。できれば、アイヌとの関りが深い北海道や、日本のはじまりである大和、中国・四国はもちろん、南は九州の宮之浦岳まで、全国の山々を網羅してもらいたいところ。
しかし、このムックの最初の頁を見ることで、その謎が解ける。「新宿発、登山列車の追憶」。
そう、紹介されている山岳は、新宿を起点として向かう山々。高度成長期の登山ブーム、超満員のホームと溢れかえる車内、クライマーによって熱狂の渦と化した新宿駅を物語とする本。それはまさしく、新宿に住む自分自身の物語でもあった。
高尾山に向かう京王線4時55分の始発。丹沢へ向かう小田急線5時の始発。先輩の住む西大宮へ向かう埼京線の始発。
電車だけなく、上高地や木曽方面へ向かう始発の高速バスなど、新宿発の電車やバスこそが、山へ向かう自分の揺りかごとなっている。
先人たちの足音、名峰の歴史を知ることはもちろん、この書籍を読んだクライマーが次なる物語を作り、語り継ぐ。