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親魏倭王、本を語る その04

【鮎川哲也の後継者】
鮎川哲也は日本においてクロフツ流のアリバイ崩しを完成させた立役者だが、その後継者と言えるのが津村秀介。津村は一貫して時刻表トリックにこだわった人で、『影の複合』など初期のノンシリーズものはけっこう読みごたえがあるのだが、ルポライター・浦上伸介を主人公とするシリーズものを書き始めるとだんだん展開がパターン化してきた。
鮎川哲也風のアリバイ崩しと言えば、鮎川哲也賞を受賞した石川真介も外せない。鮎川哲也賞受賞作『不連続線』は原稿の枚数規定のため結末部分が不完全だが、アリバイ崩しの名作である。

【ルブランとルヴェルの類似作品】
モーリス・ルヴェルはアンドレ・ド・ロルドと並ぶ「グラン・ギニョール(残酷劇)」の名手である。代表作は創元推理文庫の『夜鳥』に収録されているが、いずれも短編というより掌編と言ったほうがいい分量である。その中に、タイトルは失念したが、モーリス・ルブランの『八点鐘』に収録されている「ジャン=ルイの場合(新潮文庫版)」とほぼ同じアイデアの作品があり、驚いた。執筆年代はおそらくルヴェルのそれのほうが古いので、たまたまアイデアが被ったのか、ルブランが剽窃したのか、どちらかと思われるが……

【ヘルマン・ヘッセの異色作】
ヘルマン・ヘッセの長編小説に『シッダールタ』という作品がある。シッダールタはブッダ(釈尊)の本名だが、この作品自体はブッダを主人公としておらず、ブッダと同名の少年がブッダの影響を受けながら成長し、遍歴を経て悟りの境地に至るまでを描いている。
『郷愁』や『車輪の下』など、青春小説が多いヘッセの作品群では異色作と言える作品である。ちょっと記憶があいまいなのだが、ヘッセは一時期、インド哲学に傾倒していて、仏教などに触れる機会があったらしい。その結果生まれたのが『シッダールタ』だったようである。

【ガストン・ルルーの恐怖小説】
創元推理文庫から刊行されている『ガストン・ルルーの恐怖夜話』は、ある老船長とその取り巻きが奇妙な話を語り合う連作を中心とした短編集で、全8話からなる。いずれも1920年代の作品だという。ただ、掉尾の「蝋人形館」は、最近の研究でアンドレ・ド・ロルドの作品であることがわかっており、なぜ紛れ込んだのかが謎である。読んでみると、この作品だけテイストが違うのがわかると思う。
収録作品では「胸像たちの晩餐」「ノトランプ」「火の文字」がおもしろかった。ホラーよりミステリー(あるいは犯罪小説)寄りの作品が多いか。

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