読書録:「覇権」で読み解けば世界史がわかる
神野正史『「覇権」で読み解けば世界史がわかる』(祥伝社黄金文庫)
ありがたいことに、最近、読書できるだけの体調&精神状態に戻ってきて、サクサクと読書ができている。読書できる&外出できるということはSNSから適度に離れることにもつながるので、いい兆候である。
本書は歴史上、覇権国家として重きをなしたローマ帝国・中華帝国・イスラム帝国・大英帝国・アメリカ合衆国の興亡から歴史の法則を見出そうとする本である。その点、読み終えてみるとタイトルにいささか齟齬がある気がする(『「覇権帝国」の興亡で読み解く世界史の法則』とするのが妥当かもしれない)。
世界史の中では、その地域一帯に君臨する覇権国家が次々現れては消えていった。本書で取り上げられているうち、中華帝国は東、イスラム帝国は西の覇者ではあったが、世界規模で影響を与える覇権国家=世界帝国ではなかった。それはムガル帝国や旧ソビエト連邦も同様だろうか。モンゴル帝国はユーラシア大陸の大半を手中に収めたが、事実上分割統治となり、その点、覇者とは言いにくい。
本書で取り上げられているうち、アメリカ合衆国だけは現役で世界の覇者であり続けているが、その覇権もいつまで続くかわからない。ローマ帝国も大英帝国も衰亡したのだから、アメリカが同じ轍を踏まないわけがないのだ。日本人は昔からこのことをよく知っていて、『平家物語』に「おごれるものは久しからず/猛き者もついには滅びぬ」とある。
ふたつの世界大戦を契機にアメリカは世界の覇者となったが、著者はアメリカを帝国主義の残滓と見る。中西輝政先生が指摘されているが、イギリスとアメリカは同じアングロサクソン系国家で、その歴史的経緯からするとアメリカはイギリスの息子に当たる。大英帝国を父とするアメリカが、その背中を見て育ってきたことを考えると、アメリカが帝国主義を受け継いでいてもおかしくはない。しかし、第二次世界大戦を契機に帝国主義は完全に息の根を断たれ、それがベトナム戦争で露呈してしまったわけだが、アメリカはまだその帝国主義的な思想を捨てられていないということか。
先のトランプ政権を著者は衆愚政治と呼ぶが、トランプ氏は紛れもなくデマゴーゴス(大衆政治家)で、古代ギリシャの民主制がそれで衰退したように、アメリカも衆愚政治で衰退する可能性は高いと思う。
では、アメリカの後継となり得るのはどこか。著者は明言を避けているが、個人的にはインドあたりが有力ではないかと思う。
細かいところで「ん?」と思う部分があったが、総じて読みやすく、わかりやすかった。
ただ、参考文献は挙げてほしいところである。