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即身仏を題材にした小説

今回は、即身仏を題材にした小説で、私が把握しているものをいくつか紹介する。

即身仏をテーマにした作品として、まず取り上げるべきは高木彬光の「ミイラ志願」だろうか。 これはある盗賊が捕り方から逃れて注連寺へ駆け込み、即身仏を志すが、彼を待ち受けるのは思いがけぬ厳しい現実………というお話。 短編集『ミイラ志願』の表題作。

森敦『月山』は、無為徒食の主人公が山形県の月山の山ふところの集落で一冬を越す物語。この作品にはとんでもない話が書かれていて、なんと「注連寺の鉄門海上人のミイラは焼失しており、今祀られているのは行き倒れの乞食を代わりにミイラにしたもの」なのだという。

この『月山』について少し補足しておくと、鉄門海上人の即身仏は日本ミイラ研究グループによる学術調査で、諸記録などから鉄門海上人本人に間違いないとされている。森が作中に記した「鉄門海上人の即身仏はニセモノ」という話がどこから出たのか、ちょっと気になっている。

山村正夫『湯殿山麓呪い村』は、どちらかというと映画のほうが有名である。ある密室殺人に、幽海上人なる即身仏の影がちらつく。そして、湯殿山麓を舞台にさらなる事件が勃発する。実は未読(復刊されたときに買いそびれた)。小説のほうが映画より伝奇色が薄いらしい。

高橋克彦『即身仏(ミイラ)の殺人』は、以前、単独で取り上げたことがある。映画の撮影中に即身仏とみられるミイラが見つかり、その所有権をめぐって対立が深まる中、殺人事件が起こる。即身仏の歴史的背景などが細かく触れられていて、読みごたえがある。

熊谷達也『迎え火の山』は湯殿山麓を舞台にした伝奇小説で、即身仏も主題ではないが重要な役割で登場する。主人公の協力者である注連寺の住職(ヤクザみたいな風貌である)がいい味を出している。作中に登場する注連寺は、鉄門海上人の即身仏を祀ることで有名なお寺。

村上春樹『騎士団長殺し』は、肖像画家である主人公が『騎士団長殺し』と題された絵を発見してから不思議なことに巻き込まれていく話だが、作中に、主人公が住むアトリエの裏で入定墓と思われる塚と石室が見つかり、このできごとが作中で重要な役割を果たす。

北森鴻『触身仏』は、民俗学者・蓮丈那智を主人公とする推理小説シリーズの2作目で、表題作「触身仏」が即身仏を扱っている。「塞の神として祀られる即身仏」の謎を蓮丈那智と助手の内藤三國が追う。短編だが、二段構えの衝撃があり、なかなか読ませる。

漫画では、手塚治虫の『火の鳥 鳳凰編』で良弁僧正が即身仏になる様子が描かれているが、史実において奈良時代にはまだ即身仏の思想自体が生まれていないので(真言宗が未成立だから当然)、これは完全なフィクションと割り切っておく必要がある。


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