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読書録:道と駅

木下良『道と駅』(吉川弘文館)
10月、滋賀滞在中に読み始めた本。
約6年、滋賀で一人暮らしをしてきたが、退職して滋賀にいる理由が無くなったこと、母が亡くなり父を一人で置いておけなくなったことなどでゆくゆく実家へ戻ることにした。母の法要の都合などもあり、滋賀には一週間程度しか滞在できず、大量にある積読本も消化できていない。実家にもけっこうな冊数の積読本があり、一生、読む本には困らないんじゃないかと思ったりする。
本書は吉川弘文館の「読みなおす日本史」の一冊である。この叢書は過去に出版された専門書のうち一般向けに書かれたものを復刊しているシリーズで、良書が多いが、一冊2,200円くらいし、同じ判型の「歴史文化ライブラリー」よりやや割高である。
本書の著者は日本の国府・駅路研究の第一人者で、弟子に同じく古代道路研究で有名な中村太一先生がおられる。
タイトルは『道と駅』となっているが、両者は切り離せぬ関係だった。駅というと列車の停車場をイメージするが、元来は早馬の意味で、その早馬を常備し、宿泊・休憩施設を持たせたものを駅家(うまや)といった。この早馬が通る幹線道路が駅路で、後の街道に繋がる。それが列車の停車場を指すようになったのは、明治期に律令制を模倣したことの名残で、英語のステーションの訳語に駅が当てられた結果らしい。それ以前は従来の宿場を駅と言ったという。
余談だが、当初、民間ではステーションが訛って「ステンショ」と呼ばれていて、祖父の壮年期くらいまではまだ残っていたらしい(昭和中期ぐらいか)。
本書は陸上交通に焦点を当てた交通史の一般向け通史である。奈良時代の駅路から始まり、鎌倉時代の街道、江戸時代の五街道を経て近代の鉄道網、現代の高速自動車国道に及ぶ。僕が今までに読んだ交通、特に道路関係の本は古代道路に特化したものが多く、鉄道は鉄道、自動車道は自動車道で独立して扱われることが多い印象だった。古代から近現代まで通史的に読めるのはありがたい。これは著者も気にしていたことだそうで、あえて専門外であることを承知で筆を執られたという。
本書で少し言及されているが、土木史の研究をされていた武部健一氏は、高速道路敷設に携わっていた際、古代駅路と高速道路のルートなどの類似に驚いたという。いわく、ルートが古代駅路と重複し、事前の発掘調査で関連遺構が出る、駅家の数や設けられた場所とインターチェンジの数や場所が近似するなど。おもしろいことである。
(このあたりは武部健一『道路の日本史』(中公新書)に詳細な記述がある。)


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