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レイモンド・チャンドラーのこと
レイモンド・チャンドラーの『プレイバック』の新訳が創元推理文庫から出ているのを見かけた。チャンドラーの作品は、長編の大部分が早川書房から出ていて、東京創元社は『世界推理小説全集』に収録した『大いなる眠り』『かわいい女』以外は短編の紹介に力を入れている印象だった。近年は『大いなる眠り』の新訳が早川書房、『長いお別れ』の新訳が東京創元社から出て(創元版はタイトルから「お」が抜けている)、なんだかわけがわからなくなっている。
わけが分からないと言えば、チャンドラーが生前最後に発表した長編である『プレイバック』(僕が唯一読んだチャンドラーの作品である)は昔からチャンドラーの作品中でもとりわけ難解だと言われていて、確かに読んでいても何がどうなっているのかよくわからなかった。ちなみに「タフでなければ生きていけない、優しくなければ生きている値打ちがない」という言葉は、この作品が出典である。
ダシール・ハメットとともにハードボイルド探偵小説を代表する作家といわれるレイモンド・チャンドラーは1887年生まれ、1959年没で、おおよそアガサ・クリスティーと同年代であるが、執筆活動の開始は約10年遅く、作家デビューしたのは1933年である。この頃、チャンドラーは世界恐慌のあおりで職を失い、1932年から小説を書き始めたという。ただ、文筆活動自体はそれ以前から始めていたらしい(一時、書評を執筆していたことがある)。
元々文筆家志望だったチャンドラーは、失職を機に小説を書き始める。処女作は中編「脅迫者は撃たない」だが、執筆には5ヶ月を費やしたという。1939年に発表された処女長編『大いなる眠り』は3ヶ月で書き上げている。
チャンドラーの特徴は格調高い文体と錯綜したストーリー展開で、この特徴は『大いなる眠り』にすでに表れている。代表作はこのほかに『さらば愛しき女よ』『長いお別れ』など。多くは先に発表した中編を原型に膨らませたものらしい。
チャンドラーの作品は数冊持っているものの、実は『プレイバック』以外未読了である。経歴を見ると典型的なパルプ作家だが、その格調高い文体は芸術性の面でパルプ作家の中ではひとつ抜きんでているように思う。ただ、その格調の高さが作品の文学性を高める反面、錯綜するストーリーと相まって読者の敷居を高くしているような感じは否めない。読むとおもしろいのだが、文体が肌に合わないと感じる人はいると思う。
チャンドラーの作品は錯綜しているために難解で、ストーリーを追うのがかなり難しいのだが、洒落た会話に魅力がある。