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ジョン・ディクスン・カーとカーター・ディクスン

ジョン・ディクスン・カーはアメリカのミステリー作家だが、イギリス在住期間が長く、イギリスを舞台にした作品が多い。1930年に『夜歩く』でデビュー、密室殺人などの不可能犯罪を得意とした。代表作に『髑髏城』『三つの棺』『曲った蝶番』『火刑法廷』『皇帝のかぎ煙草入れ』などがある。

火刑法廷

カーには、カーター・ディクスンという別名義がある。ここから先は、創元推理文庫刊の諸作品(旧訳版)に付されていた中島河太郎氏の解説に基づくが、カーはある出版社と年一冊の契約を結んでいたのだが、1933年、経済的な理由から、もう一冊本を出すことを思いつく。波風が立たぬよう、別名義で作品を執筆することにしたのだが、その出版社は「カー・ディクスン」という身も蓋もないペンネームで本を出してしまった。当然、もともと契約していた出版社から抗議があり、カーは「カートライト・ディクスン」への変更を試みたが、これもより本名に近い「カーター・ディクスン」に変えられてしまった。結局諦めたのか、カーター・ディクスンが定着した。こちらの名義では『赤後家の殺人』『白い僧院の殺人』『ユダの窓』などを書いている。最近はわかりやすさを優先して、別名義の作品もその作家の最も知られているペンネームに改めるのが主流だが(例えばエラリー・クイーンは『Xの悲劇』『Yの悲劇』などをバーナビー・ロス名義で書いていた)、カーター・ディクスン名義の作品はそれなりに数があるからか、カーの別名義であることが広く知られているからか、そのままである。

ユダの窓

別名義で新シリーズを始めたカーだが、特に作風を違えたりはしておらず、文体などから「カーだ」と推測するのは容易である。探偵役のヘンリー・メリヴェール卿は、カー名義の作品で探偵役を務めるギデオン・フェル博士とは一応書き分けられているようだが、よく似たビジュアルである。カーの作風の特徴に怪奇趣味とファース(喜劇)があり、前者はカー(フェル博士)、後者はカーター・ディクスン(メリヴェール卿)名義の作品に色濃く現れているが、初期は特に区別されていなかったらしく、カー名義の『剣の八』『盲目の理髪師』はファースの色が濃く、カーター・ディクスン名義の『赤後家の殺人』は怪奇趣味が濃厚である。
ジョン・ディクスン・カーとカーター・ディクスンの関係について書いてみた。出版時に名義が分けられているので別人と思いやすいが同一人物である。


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