読書録:つながりの人類史
田村光平『つながりの人類史』(PHP研究所)
最近、体調が良くなって、コンスタントに本が読めている。ジャンルは主に歴史(考古学、民俗学含む)、人類学(形質人類学、文化人類学)、宗教、文化史といったところだ。もともと考古学専攻だったこともあり、歴史系の専門書を読むことが多い。
最近、より広い視野で歴史を語るグローバル・ヒストリーの進展から、縦軸(時代)、横軸(地域)を大きく切った歴史書が多く刊行されている。特に、人類学の視点から人類の歴史を猿人まで遡って記述する人類史は、通常の歴史書より長い時間を扱うのが特徴だ。これは人類の形質だけでなく、生活文化を扱った場合も同様で、以前読んだ『格差の起源』(オデッド・ガロー、NHK出版)などが該当する。
本書もまたそのタイプの本である。タイトルからは内容がピンとこないが、サブタイトルには『集団脳と感染症』とある。ただ、本書が単純に感染症をテーマにしているかといえばさにあらず。もっと複雑である。
簡単にまとめると、著者は情報の伝播と感染症の伝播を比較し、集団脳という考え方から人類のつながりを論じているのである。集団脳は集合知と言い換えてもいいと思うが、つまるところ、人が集まって知恵を出し合うことでより大きな脳=思考機械となることである。集団脳の発達には人の集合と情報の共有が必要だ。そのためには人同士が交流する必要があるが、それは感染症を蔓延させることにもつながる。情報の伝播の過程と感染症の伝播の過程が似ていることは梅棹忠夫がすでに指摘しているが、情報を受け入れつつ感染症のみを排除することは、人がつながりを持つ以上不可能だった。それでも人々は、なんとか感染症から逃れようと知恵を絞ってきたのである。意外なことだが、現在、多くの国が採用している一夫一妻制は子孫の多様性を制限する一方で感染症による一家全滅を防ぐ役割があったようなのである。一夫多妻制、あるいは一妻多夫制のほうが多様な遺伝子を確保できるが、集団で生活することから感染症には弱いのである。小家族であればあるほど行動しやすくなる。
内容はかなり理論的で難しいが、一般読者でもついていけるようかなり平易に書かれている。おもしろかった。
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