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不完全を愛でる

『徒然草』に「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは」という一節がある。昔から、日本人は不完全なものにあえて美を見る感性を磨いてきた。例えば、花は満開ではなく五分咲きや七分咲きを愛で、満月のみならず三日月や十六夜月に風情を感じ、散りゆく紅葉に「あはれ」を見た。
日本美術においても「不完全」や「ありのまま」が求められ、また「余白」に美を感じた。谷崎潤一郎が『陰翳礼讃』というエッセイを書いているが、意図的に陰を残すことほど、日本らしいものはない。陰と陽の調和を愛で、あえてものを不完全なものにする。世界でも類を見ない美的感覚である。

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