埋蔵文化財(遺構)の保存
日本の埋蔵文化財の多くは遺構を保存する際、埋没保存が原則というか、それしかできない。ヨーロッパのような石造りではなく、中東のような日干しレンガでも風化しない環境でない日本の遺跡は、剥き出しにしていると降雨による流出や乾燥による水分蒸発で、すぐ劣化してしまう。
奈良県の平城宮跡に遺構展示館があるが、このように覆屋を建設しないと剥き出しでの遺構保存はできない。温湿度等の管理も必要となる。しかしそこまでやっても遺構の劣化は完全には防げない。それに、遺構保護の観点から、観覧者は遺構に直接触れることができない。
発掘調査は調査だが、他の調査と違って再調査ができない。厳密には遺構が残っていれば再調査はできるが、得られる情報は最初の発掘調査の時点で止まった「歴史の流れ」であり、できることは「最初の発掘調査で得られた情報の再検討」でしかない。「発掘調査も遺跡の破壊」というが、こういうことだと自分は考えている。だから、埋蔵文化財は現状(埋まった状態のまま)が最上の状態である。基本的に我々考古学に携わるものは、むやみやたらに遺跡を発掘しない。むやみに発掘することは、却って遺跡の価値を損ねるからだ。発掘したせいで遺構や遺物の劣化が進むことが考えられる。
遺跡の範囲内で開発行為が行われる際も発掘調査は掘削深度が遺構が存在する面(遺構面)に到達する場合だけで、それも建物基礎部など、遺構が壊される範囲に限定して行う。例えばショッピングモール建設の場合、建物部分は発掘調査するが、屋外の平面駐車場は地下に貯水槽などの構造物が設けられる場合などを除き、基本的に発掘調査しない。例外的に道路のみは地下に影響を与えなくても発掘調査を行う。道路は一度敷設されると、他の用途に転用されることがないため、道路敷設前でないと発掘調査の機会がなくなるためである。
ちょっと回り道をした。本題に戻る。
劣化しやすい日本の遺構は、地下に埋めてパックしてしまうのが最上の保存方法だと考えている(これは私個人の考え方ではなく、埋蔵文化財保護の基本的な考えだと思う)。三内丸山遺跡(青森県)や吉野ヶ里遺跡(佐賀県)など、史跡公園化された遺跡は多いが、いずれも遺構は埋め戻し、その上に盛土したうえで復元建物などを造っている。古墳の場合は多くが現状保存だが、復元整備を行う場合はうっすらと盛土している場合が多い。城郭も同様である(石垣は石なので劣化しにくいため、本物の石垣を露出展示している場合が多い)。
例によって長くなったが、日本の埋蔵文化財=遺跡は埋没保存が最善の策だということである。