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親魏倭王、本を語る その02

【伝奇小説小史】
日本における伝奇小説の祖型は、おそらく曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』と思われる。近代に入ると、岡本綺堂の『小坂部姫』『玉藻前』を筆頭に、国枝史郎や角田喜久雄が伝奇時代小説を次々と発表する。戦前の代表作として吉川英治の『鳴門秘帖』が挙げられる。
戦後、GHQの統制下で一時的に時代小説が書けなくなるが、その統制が終わると柴田錬三郎らが意欲的に伝奇時代小説を執筆する。都築道夫『魔界風雲録』、司馬遼太郎『梟の城』、藤沢周平『闇の傀儡師』などが昭和の代表作として挙げられるだろう。意外だが、松本清張も『西海道談綺』を書いている。この頃、半村良が伝奇とSFを融合させ、『石の血脈』『産霊山秘録』などを書いている。この系譜上に栗本薫の『魔界水滸伝』を置くことができるだろう。
1980年代に入ると時代小説が中心だった伝奇小説に現代を舞台としたものが現れる。高橋克彦『蒼夜叉』などがそうである。また、夢枕獏『陰陽師』の成功により、陰陽師ものが伝奇小説の中で一つのジャンルとして確立する。富樫倫太郎『陰陽寮』や渡瀬草一郎『陰陽ノ京』などが挙げられる。 近年は伝奇小説≒妖怪小説となっている部分があるが、戦前の角田喜久雄らが書いていたような、妖怪や呪術の登場しない伝奇小説も読んでみたいところである。

【富士見ミステリー文庫のこと】
昔、富士見ミステリー文庫というライトノベルでミステリーのレーベルがあったのだが、正直なところ、成功したとはいいがたい。初期はそれなりに読み応えのある本格ミステリーもあったが、次第に非ミステリー作品が流入し始め、富士見ファンタジア文庫と区別がつかなくなってきて、10年くらいで廃刊したと思う。
霧舎巧氏なんかは完全にライトノベル調の作風なので、ライトノベルとミステリーの相性が良くないというより、売り出し方の問題ではないかと思ったりする。 富士見ミステリー文庫には「富士見ヤングミステリー大賞」出身の新進作家のほか、当時一定の地位を確立していたラノベ作家と一般文芸枠で活躍していたミステリー作家が参画していたが、ラノベ作家の作品は悪い意味で本格ミステリーの型にはまっており、ミステリー作家の作品のほうが柔軟でおもしろかった。特に太田忠司氏の『レンテンローズ』は傑作である。
ラノベ作家枠では後に「越境」したことで知られる桜庭一樹氏の『GOSICK』や、深沢美潮氏の『猫は知っていたのかも。』、上遠野浩平氏の『しずるさん』シリーズがおもしろかった。 富士見ヤングミステリー大賞関連では、田代裕彦氏の『平井骸惚此中ニ有リ』が良かった。


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