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エドガー・アラン・ポーの推理小説
エドガー・アラン・ポーは19世紀アメリカの小説家で、ナサニエル・ホーソーン、ハーマン・メルヴィルと並んでアメリカ文学黎明期の巨匠と言える。
ポーはミステリー、SF、ホラー、ファンタジーといった大衆文学のあらゆる分野を網羅した作家である。ゆえに、これらのジャンルはポーに始まると言っていい。ポーの作品をジャンル別にすると下記のようになる。
・ミステリー
モルグ街の殺人、盗まれた手紙
・SF
ハンス・プファアルの無類の冒険、メロンタ・タウタ
・ホラー
黒猫、アッシャー家の崩壊
・ファンタジー
リジイア、モレラ
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ポーは『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』を除いて短編しか書いていないが、これは実は計算ずくで、1時間程度で読み切れる分量で最大限の効果を上げることを期待していたという。このような理知的な頭脳の持ち主だったからこそ、ポーは推理小説の父となったのかもしれない。以下、ポーのミステリーのうち、探偵オーギュスト・デュパンが登場する作品に絞って読み解いてみよう。
「モルグ街の殺人」
デュパンのデビュー作にして、世界最初の本格推理小説。パリの住宅街で発生した陰惨な二重殺人事件の謎をデュパンが解き明かす。事件発生時の証言が分析され、デュパンによる現場検証が行われる。不完全ながらも読者に挑戦する要素もあり、この時点ですでに推理小説として完成している。
「マリー・ロジェの謎」
新潮文庫刊の傑作集では70ページほどあり、短編としてはやや長い。マリー・ロジェという若い女性が殺害された事件をデュパンが新聞記事を手がかりに解き明かそうとする。全体に冗長で、前作のような「快刀乱麻を断つ」解決にはなっていないが、これは実際に起きた事件が俎上に載せられているためで、ミステリー作家による現実の事件の考察の先駆である。
「盗まれた手紙」
シリーズ第3作。スキャンダルの種となる盗まれた手紙の在処を探る作品で、ポーのミステリーの中で最高傑作との評価もある。警察がいくら探しても見つからなかった手紙をデュパンはあっさり見つけてしまうが、その手紙はある心理的盲点を突いた場所に隠されていた。このトリックが秀逸である。
このように、ポーの推理小説はその黎明の作としては完成度が高い。いや、この時点ですでに完成しきっている。もしポーが長寿であったら、他にどのようなミステリーを書いていただろうか。興味は尽きない。