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親魏倭王、本を語る その12

【江戸川乱歩の傑作集について】
江戸川乱歩の短編のうち、狭義のミステリーの代表作は「二銭銅貨」「D坂の殺人事件」「心理試験」「屋根裏の散歩者」の4編だと思うが、乱歩の作品集で最も纏まっていると思われる東京創元社『日本探偵小説全集』は「D坂の殺人事件」が欠けている。
乱歩の傑作集は多く出ているが、狭義のミステリー作品が纏められているものは意外と少なく、僕が目を通した中では新潮文庫の『江戸川乱歩傑作選』が上記4編を纏めて収録していてよかった。併録されている「二癈人」もミステリーとしてよくできている。ただ、毛色が違う「芋虫」の代わりに、「算盤が恋を語る話」と「黒手組」を入れて欲しかった。
収録作品数は岩波文庫の『江戸川乱歩短編集』のほうが充実しているが、あちらは非ミステリー作品も多いので、ミステリーだけを纏めて読みたかった自分にはちょっと不満があった。「白昼夢」「目羅博士」はおもしろかったが。

【アレクサンドル・デュマ(父)の探偵小説】
アレクサンドル・デュマは19世紀フランスを代表する小説家・劇作家で、同じく小説家だった同名の息子と区別するため、「ペール(父)」と付けることがある。代表作は『三銃士』『モンテ・クリスト伯』などで、実に多くの作品を書いたが、自分の名義で弟子に書かせた作品もあるという。
そのデュマに『カトリーヌ・ブルム』という長編小説があるが、これが本格的な推理小説になっているという。未読だが、ネットサーフィンで見かけた読了者の感想を見ると、事件の発生から解決までの展開や、探偵役の存在、事件解決に推理を伴うなど、かなりしっかりした推理小説であるらしい。
デュマは歴史ロマンの印象が強いので、この作品の存在自体がかなり不思議なのだが、ポー以前にもバルザック『暗黒事件』やホフマン『スキュデリー嬢』など、文豪か書いた推理小説の原型と言える作品はあった。ディケンズもポーに先駆けて『バーナビー・ラッジ』を書いている。

【江戸川乱歩の短編について】
江戸川乱歩の作品(特に短編)を読んでいると、ジャンルの枠にはまらない、いわゆる「奇妙な味」も多い。そういう脱ジャンルと言うべき作品を「奇妙な味」と名付けたのは他ならぬ乱歩だが、その乱歩が実作もやっていたというのが興味深い。
個人的には「人間椅子」「赤い部屋」などがこれに該当すると思うが、どちらも広義のミステリーとして扱われることが多いようだ。 乱歩作品では「鏡地獄」が怪奇小説として扱われるほかは広義のミステリーとして扱われることが多いが、謎解きや種明かしを含まない作品をミステリーの範疇に入れるのは個人的に反対である。先に挙げた「人間椅子」や赤い部屋」はいちおうミステリーとみなしていいように思うが、「目羅博士」「白昼夢」なども含めて奇妙な味と呼んだほうがいい気もする。
「押絵と旅する男」はSFと見なすか、ファンタジーと見なすか微妙なところだが、早川書房の『世界SF全集』には収録されていた。


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