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親魏倭王、本を語る その13

【『ボウ町の怪事件』】
イズレイル・ザングウィルの『ボウ町の怪事件』は、ハヤカワミステリ文庫版は『ビッグ・ボウの殺人』と訳されているが、これでは内容がよくわからないので、個人的には東京創元社の世界推理小説全集に収録された際の『ボウ町の怪事件』のほうがタイトルとしてしっくりくると思っている(確かに「ビッグ・ボウ」と表記されているが、これは「ボウ町の大事件」と訳すべき気がする)。
これは世界最古の密室ものなのだが、なぜかよく存在を忘れられ、ガストン・ルルーの『黄色い部屋の謎』では触れられていない。
事件は、ロンドンのボウ地区の下宿で起こった。下宿の経営者がある下宿人を起こしに行くと、部屋は施錠されていて、読んでも返事がない。近所に住む元警官のグロドマン氏に立ち会ってもらいドアを開けると、下宿人は死んでいたのである。
200ページ前後の短い作品だが、最古の密室ものとしてミステリー史上でも重要な作品である。

【『骨董屋探偵の事件簿』】
サックス・ローマー『骨董屋探偵の事件簿』(創元推理文庫)は、骨董商のモリス・クロウが探偵役を務めるシリーズ短編で、単行本全一巻が出ている。
主人公のモリス・クロウはちょっと特殊な人物設定がされていて、彼は「事件現場で眠る」ことで手がかりを得る、一種の超能力者である。ただし、彼が眠りで得られるのはあくまでも手がかりであり、真相は通常のミステリーと同じくロジックで導き出される。短編という限られた用紙数内で効率よく謎解きを行うため、この設定が使われたのかもしれない。 主人公が骨董商ということもあって、骨董が事件に絡むことが多い。そのため、ややオカルトチックな謎の設定やストーリー展開もあって楽しめる。
個人的におもしろかったのは、エジプトから運ばれたミイラの首が次々と刎ねられる「頭のないミイラ」。 サックス・ローマーは『怪人フー・マンチュー』などのスリラーで知られる作家。

【『朱』】
森真沙子氏に『朱』という時代ホラー小説がある。現代と過去が交錯する作品で、ある歴史家の死をきっかけに、飛鳥時代に起きた奇怪な事件の全容が明かされる。
割とサクサク読めるが、実はあまりいい作品とは思っていない。なぜかというと、遣隋使に当時は存在しない「藤原姓」の人物がいるからだ。「フィクションなんだから目くじらを立てるな」と言われそうだが、末端とはいえ歴史研究を生業とする自分がそれを見過ごすわけにはいかない。フィクションとはいえ「紙上のリアリティ」は必要で、ある程度の時代考証がないとそのリアリティは担保できない。
執筆背景は不明だが、おそらく作者が筆を滑らせたと考えている。ただ、問題は、明確な誤りが校閲を通ってしまったことで、そうした明らかな誤りを指摘し修正させるのは編集者の役割ではないだろうか。ストーリーとは関係ないところで、読んでいてちょっとモヤモヤする作品であった。


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