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食べたくない患者と食べさせたい家族の葛藤にどう向き合うか? - 終末期の食事をめぐる対話

こんにちは。やまとドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分で終わる医師カンファ」では、現場での気づきや悩みをテーマに、やまとの全診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は「終末期の食事を巡る患者・家族との関わり方」について話し合いました。

Take Home Message

  • 家族の気持ちに寄り添いながら、徐々に自然な経過を理解してもらう

  • 食事の意味を「義務」から「楽しみ」へと捉え直す機会を提供

  • 医療者、患者、家族で共に考えるプロセスを大切にする

カンファでの意見交換
A医師:「ご飯を食べさせたい家族とご飯をどうしても食べたくない患者について相談させてください。最近というか時々あるのですが、家族としてはこれまでずっと食べられていたのが徐々に食べられなくなってきている状況に直面していて...」

「一方で、老衰の過程で食事が徐々に食べられなくなって、食べたくないという患者さんもいます。家族としては食べられなくなれば、そのまま弱っていって寝たきりになって心配、ということがあります」

B医師:「とてもよく経験することだと思います。やはり一般的には最小限の点滴で対応することで落ち着くことが多いような気がしますが、やはり『自然な経過です』という話をしてもあまりしっくりこない方は多いかなと思って。何かいい方法があれば僕も教えて欲しいと思っていました」

C医師:「難しいテーマですね。自然の経過で体調が変わっていって、ご飯も食べられなくなってくる。それはもう、とても自然なことだと説明の軸にはしていますが...結局はやっぱり家族が後悔しないようにという面も出てくるので、平行線のまま終わることも多いです。ただ、それ自体が悪いことでもないとは思っています」

D医師:「個人的には家族の形によるところかなと思っているんです。本人が辛くないように、ご家族が後悔しないように、両方を考えてあげたいと思っています。許容される範囲でご飯を食べさせてあげる、ということを経験したことがあります」

E医師:「やはりご家族も最初は納得できないというのが原因なんでしょうが、少しずつお話をして、いろんな提案をして、小出しに試していって。試した結果、失敗してまた違う提案をしての繰り返しで、少しずつ納得していただくのかなと思います」

「ときには認知症やうつで食べない場合もあるので、もしかしたら抗うつ薬や抗精神病薬を出すと食べられるようになることもあるかもしれません」

F医師:「患者さんご自身が意識があって希望をしっかりと述べることができる場合は、比較的簡単に話が進んでいくと思うんです。ですが、患者さんは特に意思表示ができないんだけど、ご家族が『食べさせてあげたいのでなんとかトライしてほしい』というようなケースもあります」

「その時はある程度『こういう状態になったらやっぱり控えましょうね』という説明をした上で、何日間か1週間、2週間、様子を見てみましょう、と合意を得ていくことはしばしばやっています」

G医師:「説明の仕方に関しては、食べさせることが逆に精神的に苦痛だったり身体的な負担になったりすることをお話していくと、だんだん理解されることも。歩けなくなってくるのと同じで、だんだんと食べる意欲や力も衰えていると何回か話すことで、納得してくださる方がいるという経験があります」

「また、過去に他のご家族を看取られた経験があるとか、『もともと食べるのがすごく好きだったのに』とか、ご家族の背景や声を傾聴し、一緒に食べられやすいものを探すなど寄り添っていくプロセスを経て納得していただけることがあります」

H医師:「老衰患者さんをどうご家族に説明するかということだと思うんですけど、老衰過程はどうしようもできないことが多いので、やっぱり大事なことは捉え方を変えてもらうということだと思うんですね」

「その捉え方を変えてもらうためにいろいろ言葉を尽くすんですけど、人ってやっぱり聞きたいものを聞きたいし、見たいものを見たい、というのがあるので。患者さんによっては『老衰』という言葉を聞きたくない方もいらっしゃるし、ご家族も『時間が限られている』という言葉を聞きたくない。それを分かっている中で、何が聞きたくない言葉で、何が聞きたい言葉なのかを探りながら...」

「多分大事なことは『この医者は自分の味方だ』と思わせることなんですよね。いかに”その人の立場やご家族の立場に立ってくれている”と思ってもらえるかが、やっぱりポイントなのかなという感じはします」

I医師:「ご家族も大きく分けると2つのパターンあると思うんですが、一つは『何でこんなに食べさせないで終わらせるのか』と疑問を持つ方。あとは、すごく患者さんのことを親身に考えていて、大事にしていて、なんとか食べる楽しみを続けさせてあげたいという方もいます」

「後者の場合は、ご家族の気持ちをよーく理解して差し上げて、一緒に考える時間を持って。食べたり飲み込んだりはできないにしても、例えばお好きなものを口の中に入れて2、3回噛んで、あとは出してあげるというようなことで味わうこともできますし」

「あとは口腔ケア用のスポンジにお好きなもののスープなどを口の中に入れて味わってもらって『美味しかったな』という表情をされれば、ご家族はある程度ご自分の気持ちを納得させられますし、飲み込めないという変化を実感することもできます」

J医師:「やっぱりワンポイントだけじゃなく、そこまでの過程が大事なんじゃないかなと思っています。食べられなくなってくるのは老衰の過程だ、というところに行き着くまでに、他の原因や背景を考えたり、試したり、見たりする期間がずっとあるんだと思います。それでも、やっぱり厳しくなってきたという過程は、診療側だけじゃなくて、ご家族とまず共有できるといいのかな。あとは、少しずつ経過が分かっているような場合は、私たちのように1日3食しっかり食べる方法はなくなってくる、しなくてもいいというところもですね」

K医師:「味覚も変わったりするので『前はあんなに好きだったから』と応援したくなりますし、歯が丈夫だった人に若い時に好きだったものを出して(食べられないと)がっかりするお気持ちも分かります」

「ご本人もご家族もお食事が義務みたいになると、1日3食、毎日ものすごくきつくて辛い苦行のようになるので、お互いに食事が苦痛じゃないような、例えばお誕生日や行事がポイントになればいいかもしれないですね。いつも食べないものを意外と食べた、みたいなちょっとした喜びが共有できるといいかなと思います」

おわりに
終末期の食事は、単なる栄養の問題ではなく家族の愛情や不安、患者さんの尊厳など、様々な要素が絡み合う複雑な課題です。今回の議論を通じて一つの正解を求めるのではなく、それぞれの状況に応じて患者さんと家族に寄り添いながら、共に考えていくプロセスの重要性が浮かび上がりました。

A医師:「魔法の言葉があればと思って今回提案したのですが、やはりそういうものはないですね。時間をかけて信頼関係を築き、ご飯が食べられないこと自体よりも、その背景にある家族やご本人の感情に目を向けることが大切だと学びました。ありがとうございました」

本日の議論が、医療介護の現場での実践の一助となれば幸いです。
やまとドクターサポートの原田でした。