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在宅医療における高血圧治療 - 院内でのミニレクチャー

こんにちは。やまとドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分間の医師カンファ」では、現場での気づきや悩みをテーマに、やまとの全診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は、在宅医療における高血圧治療について話し合いました。

高血圧治療の基本

冒頭、以下のような基本的な知見が共有されました:

  • 高血圧治療の意義:収縮期血圧を下げることで、脳血管疾患で40%、冠動脈疾患で20%のリスク低下が期待できます。

  • 在宅患者の血圧目標:140/90mmHgや135/85mmHg程度が目標となることが多いです。

  • 二次性高血圧:65歳以上の高血圧患者の約17%が二次性高血圧とされており、3剤併用でも効果が乏しい場合は約10-20%が二次性高血圧の可能性があります。

カンファレンスでの意見交換

A医師(ミニレクチャー): 「高血圧治療の基本薬として、3つの薬剤を覚えておくとよいと思います:カルシウム拮抗薬、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、サイアザイド系利尿薬です。特にサイアザイド系利尿薬は第一選択薬の一つとされていますが、実際にはあまり使用されていない印象です。

また、カルシウム拮抗薬の副作用として、下腿浮腫以外に夜間頻尿や便秘があることも知っておくと良いでしょう。これは血管拡張作用による影響と考えられます。

内服のタイミングについては、朝よりも夜の方が心血管イベントリスクを下げられる可能性があるという報告もあります。人間の生理的な血圧変動では夜間に下がるのが通常ですが、夜間に血圧が下がらない『ノンディッパー型』の患者さんでは、夜間投与を検討する価値があるかもしれません」

B医師: 「患者さんから『一生薬を飲み続けなければならないのですか』と質問されることがあります。その際、私は『江戸時代は人生50年と言われていた時代から80年になっているのは医学の力によるところが大きく、高血圧治療もその一つです』と説明しています。ただし、『長く生きるのも、短く太く生きるのも、それは個人の選択です』とお伝えすることもあります」

C医師: 「ARBを第一選択薬として使用する際の腎機能への影響について質問があります。開始後にクレアチニンが上昇することがありますが、どの程度まで許容できるのでしょうか?」

D医師(回答): 「ARBは確かに糸球体濾過量を下げるため、クレアチニンは見かけ上悪化します。しかし、長期的には腎保護作用があり、30%以上の悪化でなければ継続することが推奨されています。これは心不全におけるβ遮断薬の考え方に似ています。一時的に心機能は低下しても、長期的な予後改善のために使用するという考え方です」

E医師: 「二次性高血圧のスクリーニングについて、全例で行うべきでしょうか?」

F医師(回答): 「実際には全例スクリーニングは現実的ではありません。ARB開始後、著明なクレアチニン上昇があった場合に腎血管性高血圧を疑うといった対応が現実的でしょう。なお、腎血管性高血圧のスクリーニングではMRIよりもエコーの方が検出感度が高いとされています」

G医師: 「認知機能の低下した高齢者での血圧管理について、どのように考えればよいでしょうか?」

H医師: 「眼鏡の例えを使うことがあります。『目が悪い人が眼鏡をかけ続けるのと同じように、血圧の薬も必要な人には必要なものです』という説明で、比較的理解していただけることが多いです」

実践的なポイント

  1. 薬物療法の基本は3つ

    • カルシウム拮抗薬

    • ARB

    • サイアザイド系利尿薬

  2. 投与のタイミング

    • 夜間投与の有用性を示す報告がある

    • 特にノンディッパー型では検討価値あり

  3. 副作用への注意

    • カルシウム拮抗薬:下腿浮腫、夜間頻尿、便秘

    • ARB:腎機能への影響(30%以内なら許容)

おわりに

在宅医療における高血圧治療では、標準的な治療指針を踏まえながらも、個々の患者さんの状況に応じた柔軟な対応が求められます。また、薬物療法だけでなく、患者さんやご家族への丁寧な説明も重要な要素となります。