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認知症患者の不穏症状にどう対応するか? - 服薬困難な患者への対応を考える -

こんにちは、やまとドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分間医師カンファ」では、現場での気づきや悩みをテーマに、やまとの全診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は認知症患者の不穏症状への対応、特に服薬困難な場合の対処方法について話し合いました。

Take Home Message

  • 服薬可能な患者には非定型抗精神病薬(クエチアピン、リスペリドン等)を第一選択として検討

  • 服薬困難な患者には代替投与経路(貼付剤、座薬等)の活用を考慮

  • 薬物療法と併せて、環境調整や非薬物的介入の重要性を認識

カンファでの意見交換

A医師:「認知症の専門医として、リスペリドンやクエチアピンをよく使用しているのですが、介護力が不足していたり、お薬を飲ませられないような方もいらっしゃいます。皆さんは、そういった場合どのように対応されていますか?」

B医師:「まず、具体的な患者さんの状態を教えていただけますか?」

A医師:「そうですね。例えば、腎機能はeGFRが30前後で、ほぼ寝たきりに近い状態の方です。昼夜逆転があり、特に夜間の大声で家族が眠れないという状況です。予後は数ヶ月程度と見込まれる方を想定しています。」

C医師:「不穏症状、特に大声で騒ぐような場合には、予防的アプローチが重要ですね。私の場合、セロクエル(クエチアピン)やリスパダール(リスペリドン)の内用液を使用しています。内用液であれば確実に投与できる利点があります。」

「非定型抗精神病薬は確かに有用ですが、糖尿病への影響やQT延長には注意が必要です。服薬困難な方には、セレネースの注射や座薬も選択肢になります。ただし、在宅患者さんは入院患者に比べてストレスは少なめなので、家族の関わり方の工夫も重要です。昔話をしていただいたり、タッチングなどのスキンシップで、なるべくストレスを軽減する工夫をしています。」

A医師:「服薬が難しい患者さんの場合は、どのような工夫をされていますか?」

D医師:「私の場合、ロナセンテープを使用することがあります。体格の小さい方なら30mg、通常は40mgからスタートして、最大80mgまでの範囲で慎重に使用しています。」

E医師:「セレネース座薬も選択肢の一つです。比較的長く効果が持続し、意外と落ち着くことが多いです。ただし、糖尿病への影響やQT延長には注意が必要です。」

A医師:「非定型抗精神病薬以外で効果的な薬剤はありますか?」

F医師:「私は最近、トラゾドンを積極的に使用しています。アメリカでは認知症の不眠・不穏に広く使用されているそうです。症例の約2/3でご家族から良好な反応が得られています。ベンゾジアゼピン系より安全性が高いのが特徴です。」

A医師:「薬物療法以外のアプローチについても教えていただけますか?」

G医師:「私は認知症でネタきりで介護力不足の場合、まずショートステイの活用を提案します。また、デイサービスで介護者の休息を確保することも重要だと考えています。」

H医師:「環境調整も重要です。夜中でも蛍光灯が点いていたり、テレビが付いていたりすることがよくあります。生活環境の確認を忘れないようにしています。」

A医師:「投薬のタイミングについて、何か工夫されていることはありますか?」

I医師:「夕食後の早めの投薬で効果が出やすい印象があります。クエチアピンの舌下錠は口腔内が乾燥している場合は吸収が悪いので注意が必要です。また、不穏の原因となる身体症状の見落としがないか、定期的な見直しも重要だと考えています。」

実践的なアプローチ

  1. 薬物療法の選択

    • 服薬可能な場合:クエチアピン、リスペリドンを中心に

    • 服薬困難な場合:貼付剤、座薬などの代替経路を検討

    • 夜間症状への対応:トラゾドンなどの活用

  2. 非薬物的介入

    • 環境調整(夜間の照明、テレビ等)

    • 家族によるスキンシップ

    • 昔話などのコミュニケーション

  3. 介護負担への配慮

    • ショートステイの活用

    • デイサービス等の利用

    • 介護者の休息確保

  4. 基本的な確認事項

    • 不穏の原因となる身体症状の確認

    • 服用中の薬剤の見直し

    • 生活リズムの調整

おわりに

今回の議論では、服薬困難な認知症患者への対応について、様々な視点から具体的な方策が示されました。薬物療法の選択肢の多様さと、それぞれの投与経路における工夫、さらには非薬物的アプローチの重要性も確認されました。

本日の議論が、皆様の診療現場での判断の一助となれば幸いです。

やまとドクターサポートの原田でした。