天職を探す友
彼とは高校生の頃に出会った。
野球部に入部して、知らず知らずのうちに仲良くなった。彼の無邪気な笑顔と少しだけイケメン要素の入った整った顔が特徴的だった。
頻繁に連絡は取らないけれど、集まる機会があれば、基本的にお互いがもれなく参加して会っている。
昨日も一緒にいたかと思うくらい自然に「おう」と挨拶をする。
この時はお互いに久しぶりだなぁ!!という感情が含まれている「おう」なので、顔を見ると2人とも全力でニヤけている。
僕はそんな彼が好きなのだ。
彼は高校卒業後、パティシエになるために製菓学校に進学をした。
夢について語り合ったことなど無かったが、坊主頭の悪ガキがパティシエになっている姿を想像すると、笑いが止まらなくなる。
けれど僕はお似合いだと思った。「頑張れよ」「おう」とやり取りをした。
数年後、野球部の集まりがあって久しぶりに彼に会った。例の如くニヤニヤと笑いながら「おう」と言い合った。
彼は製菓学校を卒業後、自衛隊に入隊していた。
「あれまぁ」と僕が言うと、うへへと笑い顔を浮かべる彼。言われてみれば肩周りが大きくなっている気がする。
「なんか、日本を守りたくてさ」と冗談混じりでいう彼に対して、お母さんが息子を見るような温かい目をしてしまった。彼らしいよなと思った。
お菓子の作れる自衛隊という珍しい肩書きを背負った彼の笑顔は一層輝いてみえる。
数年後、またも野球部の集まりで彼に会った。
彼は自衛隊を辞め、パーソナルトレーナーになっていた。
「あれまぁ」と僕が言うと、うへへと笑い声を浮かべた彼。同じやり取りを前にしたことがあるなぁとも思ったが、言われてみたらさらに肩周りが大きくなっている気がする。
お菓子の作れる元自衛隊のパーソナルトレーナーという珍しい肩書きを背負った彼は、もう止めることはできない。
毎日を全力で楽しんで生きている彼を見ると、羨ましい思いと同時に力がもらえるのだ。
僕も頑張ろうと目がカッとひらき、心の中で火が灯る。
勢いよく服を脱いで、運動着を取り出す。
鏡に映る自分を眺め、一呼吸をおく。
まずはお腹についた浮き輪をとらないとな。
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