持たざるものは、学ぶしかない
「いい気づきから、いい企画が生まれる。」ということで、観察の練習の著者・菅俊一さんを講師にお招きし、第二回の企画メシが行われました。
「すべての選択には、理由がある。曖昧さを残すとダメな気がするんです。」
ご自身の経験から見落としていたものに気づくためには、何に気づくかという問題設定が適切にされていれば、誰でもできると話してくれた菅さん。「いい気づき」を得るためには、「観察の練習」が必要になってくる。観察による気づきは、技術だと捉え、何に着目するのかを意識しながら、何度も何度もやるしかないと語ってくれました。
菅さんは、高校時代の部活、大学受験、佐藤雅彦研究室、就職など話題にでたどんな話にもすべて理由があって、それをきちんと説明できる。
そうするための習慣をしっかりとつくっている。でも、それをセオリーとせず、いつも新しい視点や方法を探している学び方研究者でした。
ぼくたちは誰しも、先入観の中で生きている
まっさらな視点というのはない、と思うんです。ぼくたちは、誰しもが偏った先入観の中で生きていると思っているんですよね。
と菅さんは話して、この質問を投げかけました。
結果は、「図書館司書」を選んだ人が圧倒的に多かったのです。実際の図書館司書の人の中には、そうじゃない人もたくさんいるのに、ほぼ全員が選んだ。どうしても偏った状態で、ものを見てしまうと実感させられた瞬間でした。
名前も、顔も、親も、育ってきた環境もそれぞれが全部違う経験をしてるので、偏っていてあたりまえ。まずは、じぶんも偏っていることを意識する。そこからスタートすると、いい気づきを発見しやすくなるのです。そして、その偏りを知るためにも、観察の練習が必要だ。とのことでした。
観察のはじまり
そう話していた菅さんが日常的に観察を行うようになったきっかけは、『Sound education』という本との出会いでした。
たとえば、「いま目を閉じて、この空間になっている音を全部書き出しなさい。」などの課題をそのとおりやってみる、という本。
人間は、ある程度情報を勝手にシャットダウンしています。全部入れると情報量が膨大すぎて、脳に負荷がかかりすぎてしまう。なので、だいたい無意識に情報を捨てているのだそうです。
菅さんは、この本での体験で、「何かにフォーカスすることで、ものの見方がここまで違うのか!そして、こんなにも無意識に情報を捨ててしまっていたのか」ということに衝撃を受け、日常的に観察をするようになったそうです。
見つけた“気づき”は、逃さない。
菅さんは、大学などの教育の現場で、観察力を身につけてもらうために、最初は課題を毎週出して、考えるのではなく、強制的に数を見つける訓練をやらせると言ってました。その裏には、こんな想いが込められてました。
あらゆる角度からものを考えて、アイデアをつくる。これはもう数をこなすしかない。本当は才能なのかもしれないけど、才能を一旦なしにしたんです。完全に技術の領域だと。そうすることで、「どういう技術を身につければいいのか」という問いに変わるので、そうやってずっと考えて続けてきました。
だから、とにかくやって、身体に技術を覚えさせる。アイデアをつくるのは、技術だから、筋トレのように一定の訓練を続けないといけないと。
そして、菅さんご自身も、今でも「どうやって、その技術を獲得できるか。」を意識して、“学び方”について研究・訓練しています。
その一つが「1日1つは、気づくこと」という日課です。これを続けるコツを聞いたところ、見つけたものを逃さないために、とにかく、はやく、どこかに、定着させる。写真でも、手書きでも、なんでもいいから、とにかく高速に記録するのがコツなんだそうです。
同じ問題を二度と解かないためのそもそも論
観察を続け、色々と気づけるようになった。でも、それを仕事に活かすためには、どうすればいいか? ということで、菅さんに、仕事でアイデアをつくるときの話を伺いました。
仕事の場合はまず、課題に対して「そもそもどういうところが課題なんだろうか」や「ポイントはどこなんだろう」を一度考え直すんだそうです。
あとは、自分の言葉で与えられた課題を言い換えて、「そもそも」に立ち返る。ここにフレームワークなどはなく、その都度その都度なにが一番機能するのかを考えるとのことでした。そこには、菅さんの仕事に対するこんな姿勢がありました。
対処療法的にその場しのぎもできるんですけど、そもそもの元を断つのが一番いいと思ってるんです。できるだけそっちの視点にたって、考えるようにしていますね。同じ問題は二度と解かなくて済むように、元を断っちゃうんです。
課題や問いを与えられたときにまず、「それってそもそも一体なんなの?」と考えて、全体を俯瞰してみる。そして、これまでの気づきストックなどを組み合わて、課題解決に導いてく。そうすることで、二度と同じ問題を解く必要がなくなってくるそうです。
制約を味方につけて、アイデアを育てる
そもそもにおいて、自由に考えるのはいいことだと言われているけど、そうとは思っていないんです。制約というのは敵ではなく味方。予算や時間を味方だと考えたほうがいいし、どうやったらもっと味方になってくれるかを考えるともっといいんじゃないかなと思います。
菅さんは、制約を人間の行動をうまく誘導して、アイデアを育ててくれる重要なポイントだと定義していました。踏み台としての制約と考えるようにしているそうで、下のような図を見せてくれました。
制約がある事で、踏み台から跳ぶ方向を確定できる。だからあとは、どれくらい遠くに、もしくは近くに跳ぶかという話だけ。問題がひとつに定まるんだそうです。そうなると、自分にどんな制約を課すかも大事にってきます。じぶんがノリやすい制約は、人によって違うので、それを見つける。
これもいろいろと試行錯誤しながら、見つけるしかなくて、やっぱりここでも数をこなす必要がある。「持たざる者が持っている者に対抗するために、真面目にコツコツ学ぶしかないんですよ。」と淡々と、それでいて熱く語っていた姿がとても印象的でした。
論理的思考のすすめ
「ロジカルシンキング」みなさんもよく聞く言葉だと思います。お話を伺っていると菅さんは、とてもロジカルに考えられていて、どんなエピソードにも、すべての選択にも理由がありました。ロジカルな思考がなぜいいかということも教えてもらいました。
菅さんは、アイデアの良し悪しの評価は、直感で、パッとみた瞬間に判断しいると言います。その後に、「なんでこれがいいのか・悪いのか」ということをロジックで肉付けしていくんだそうです。逆にアイデアを考えるときは、ロジックでいくしかないと考えている。そこには、作り手としてのプライドが隠されていました。
ディレクションの仕事って、ぜんぶ判断の集積なんですよね。かなり労力をかけて、いっぱい考えて、選んで、作っている。だから、大きく外れていない気がします。でも、判断の理由は必ず明確にしておくんです。失敗は糧になるといいますけど、失敗した理由を残していたから、糧になるんです。じぶんの作ったものに関しては、「どうしてこういうものになったのか」ということをロジカルに説明できるのが作り手の義務だと思っています。
技術を身に付けるためには、失敗はつきもの。でも、その失敗を失敗のままにしておくのでは全く意味がない。しっかりと糧にするために、必ずロジックで理由を明確にして置いて、どこで、なぜうまくいかなかったのかを解析して、つぎの仕事に生かす。どんな事も学びに変えてしまう学び方研究者の姿勢を見せつけられました講義になりました。
いい企画とは、みんなを能動的にさせる存在
最後に菅さんにとって、「企画」とはなんですか? と聞いたところ、
みんなが目を見開くアイデアって、仕事じゃなくなる。
みんなを能動的にさせる存在。いい企画にはそういう力があるはずなんです。そういうものを生み出すのが、ぼくたちの仕事。
と答えてくれました。自分の世界も偏っていることと観察の練習を積み重ねていく重要性を理解できた一日でした。これを実践して、みんなを能動的にさせる企画を作っていきます。以上、観察の企画でした。
今回の表紙のイラストも、毎度お馴染みイラストレーターのヤギワタルさんです。今回は、事前に記事を読んでもらい、そこからイラストを選んでもらいました。ヤギさんの作品はこちらから、ぜひ見てみてください↓↓↓
https://www.instagram.com/yagiwataru/
今まで書いた記事も読んでみていただけると嬉しいです!
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企画メシについては、こちらから
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