人は、だれもが物語を携えている
企画メシ第5回は、Takram 渡邉康太郎さんをゲスト講師にお迎えし、コンテクストの企画が開催されました。
企画メシとは、電通のコピーライターの阿部広太郎さんが主催する企画講座。多種多様なゲストをお呼びし、事前に課題を出してもらい、各講座前に課題に対する答えとして、企画を提出する。講座は、2部構成となっており、前半はゲスト講師へのインタビュー、後半が事前に提出した企画への講評の時間となっています。この記事では、前半のインタビュー部分をまとめています。
今回のゲスト講師の渡邉さんは、2007年からTakramに参加。「ものづくりと物語の両立」という独自の理論をテーマに企業研修やワークショップも実施しています。質問をすると、「じぶんもまだトレーニング中、修行中。」という言葉が何度も渡邉さんからでてきました。そこに、完成することがないコンテクストデザイナーとしての意識がありました。渡邉さんから紡ぎ出される言葉の端々からそれを感じ取ることができる時間となりました。その一部を共有できれば、嬉しいです。
ひとりひとりのクリエイティビティを信じたい
ものづくりと物語の両立をテーマに活躍している渡邉さん。「心に残るモノの条件として、語り継がれることがある」と言います。どんな人でも、必ず大事な物語を携えているという信念があり、それが自分自身の持ち物の場合もあれば、人からバトンを受け取る物語の場合もあるんだそうです。
しかし、そのどちらの場合でも、語り継がれるものには、必ず物語が宿っている。それを引き出すことができるのが、よいコンテクストデザイナーの条件であり、なによりも人の記憶に残るものをつくりたい。人の記憶に残るモノ、心の奥底に触れる、もしくは、場を感じるモノ。そういった事例をなるべく多く作ったり、いろんな人と学びたいなと日々仕事に打ち込んでいるそうです。
つい応援したくなってしまった1冊の本屋の話
物語を宿すために、強い文脈と弱い文脈を設計するのがコンテクストデザイナーの仕事だと言う渡邉さん。強い文脈、弱い文脈とは、どう言うことなのかを伺いました。
書き手は、強い文脈を持っている。この強い文脈は、社会・大衆の常識であったり、書き手からのメッセージのことをさします。このメッセージを受け取るのが読み手である。読み手は、弱い文脈をつくる自由を持っている。
自分なりの作法で、強い文脈を解釈して、自身に引き寄せて読み解く。その際に、生まれる誤読のことを弱い文脈という。
この強い文脈と弱い文脈が矛盾をはらんでいると、分類不能なものは、人の心に残る。その矛盾を自分なりの使い方を探そうとする。分類不能だからこそ、想像力が引き出されるんだそうです。
ここで、森岡書店という本屋の話をしてもらいました。森岡書店という本屋は、約5畳の場所で、一冊だけの本を売るという本屋です。一冊だけしか本を売らないという商業的自殺行為に見えるのだけれども、「一冊だけの本屋をやってみたいです。」という無謀な森岡さんの熱い想いがあって、応援したくなってしまったんだそうです。
森岡書店のポイントは、2週間で1冊の本が変わることと、著者が本屋にいること。普通の本屋は、本を通して、まだ見ぬ著者と出会う。しかし、この森岡書店では、逆で、著者に出会ってから、本と出会う。
「一冊しか売らない本屋をやりたい!」このすごく無謀な商業的に成立するかわからなかった挑戦だったけれども、意外にしっかりしていて、9ヶ月先くらいまで予約が埋まっているんだそうです。
ここで注目してほしいのが、今はアマゾンの時代なのに、意外と繁盛しているというところ。アマゾンのビジネスというのは、場所をもたないけれど、無限の本のストックがある。森岡書店は、その逆で、5畳という場所に、1冊の本しか売らない。森岡書店とアマゾンは、真逆だからこそお互いを必要とするんですよね。こういったのを愛情込めて、ひとりぼっちの産業革命と言っているんだそうです。いろんなところで、この産業革命をひそかに起こしていきたいと渡邉さんは語ってました。
社会を豊かにする誤読を作るのがコンテクストデザイナーの仕事
森岡書店に、一冊だけ本が置いてあると、通りすがりの人がスーッと引き寄せられるときがあるそうです。「この本はぼくのためにある!」と雷を撃たれて、買って帰ってくれる。彼のために置いたわけじゃないんだけど、一冊だけ設えてあると、うっかりそう思い込んでしまう誤読が起きたのです。
つまり、普通の本屋やアマゾンには、たくさん本があり、似たような本がたくさんあるから、その一冊が引き立つことはない。しかし、森岡書店では、森岡さんが一冊を設えたその場にお客さんがきたときに、ある積極的な誤読が起こる。「この本は、ぼくのためにあるんじゃないの?」とうまい具合に勘違いしてくれる。
よく考えてみたら、森岡書店を開こうと思った森岡さんの心意気自体が時代を、社会を誤読している。そんな中、「一冊の本屋なんて、本当にできるのか。」という逆境、逆風に負けずに開いてしまった。ある種、社会という読み物を森岡さんが誤読した。
1回目の誤読として、森岡さんがビジネスをはじめてしまった。
2回目の誤読として、お客さんが勘違いをしてくれた。
というのが実は、連なっている。誤読が重なって起きることで、物語が人から人へどんどん伝わる。社会は、二度以上の誤読で豊かになる。社会の強い文脈と個人の弱い文脈を寄り添わせる仕事、翻訳する仕事。それがコンテクストデザイナーの仕事なんだそうです。
渡邉康太郎のコアを作っている会ったことのない師匠
渡邉さんのコアを作った師匠のひとりに、江戸時代の医者である三浦梅園がいます。「枯れ木に花咲くを驚くよりも、生木に花咲くを驚け」という言葉を渡邉さんは、とても大事にしているんだそうです。
人は「一度死んでしまった木に、また花が咲くような奇跡」をもてはやして注目しがち。だけど、そもそも「生きている木が、毎年春にちゃんと花を咲かす」ということ自体に驚きを見いだす。その心と目を持てるかどうか。
人間の脳は、もともと情報をシャットアウトしちゃう生き物。知っている情報と違うものだけ捉える構造になっている。だから、日常になっていってしまって、些細な変化に気づけない生き物なんです。そこで、しっかりと日常の生きている花が咲くことに目を向けられるか。 言うは易しなんだけど、日常の中の非日常に気づけるかどうか。試されてますよね。
とこの言葉を大事にしている理由を語ってくれました。
問いを見つける振り子の思考
Takramでは、プロジェクトの問いを見つけるために、振り子の思考をよく使うそうです。振り子の思考とは、ひとつの枠組みにとらわれず、2つの極の間を高速に行き来しながら、答えを揺れ動く残像の中に見いだすこと。その極は、プロジェクトによって異なるが、ひとつの問題を少なくとも2つの切り口から見て、2つの思考領域を行き来する思考のこと。
たとえば、今回の企画メシの事前課題のテーマが、「記憶に残るものを考えよう」。記憶というボヤッとしてるテーマ。 ボヤッとしたまま進むと、思考も議論も前に進まないので、常にある程度ひいて、認識しておく必要があって、 記憶に残す(抽象)→家にあるものはなんだ(具体)→じゃあこれはどういうことだ? (抽象)と極間を行き来するのが大事。両極は入れ替え可能で、進めていくと中身のあるロジックになる。両極をきちんと捉えておくのというのが重要なんだそうです。
また、振り子の一番最初のスタート地点は、その人の好みでいいとのこと。たとえば、 具体案を死ぬほど数だして、そこからなんとなく法則がでてくる人もいる。 どっちかを進めた段階で、どっちかに振っていく。今回の場合は、具象と抽象を行き来するのがポイントであると振り子の思考について教えてもらいました。
問いは、アップデートできる
問いと答えの行き来という振り子もあるんだそうです。 なにか新しいものを作りたいときに、問いが先にある。なかなか解決策である答えが思いつかず行き詰ってしまいそうな時には、そもそも問いが正しいのかと疑うことも大事であると渡邉さんは言います。
基本的には、問いの質の上限と答えの質の上限というのがあり、問いがよくなければ答えもよくない可能性が高い。だから、問い自体をアップデートすることによって、答えもアップデートすることもできるんですよ。
問いを絶対的で動かせないものとしてではなく、逆に問いを動かしてみるがよいものとして考えることはできないか。と発想の転換を行うとすんなりと行くことも。
ちなみに、阿部さんや渡邉さんは、課題やオリエンをもらった時に、相手がなにを考えてるかというところからスタートするんだそうです。悩みの部分が表面化していないもっと深い部分にあるかもしれないので、人にヒアリングやインタビューをするようにしているんだそうです。そうやって、しっかりとその解こうとしている問いの本質を見極めて、物語のある作品を作っていく、その方法や姿勢を今回の企画メシのゲスト講師渡邉さんから学びました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!企画メシで、阿部さんや渡邉さん、企画メシ仲間たちからもらった熱量を、少しでもおすそ分けできてたら、嬉しいです。
講義を終えてから、だいぶ時間が経ってしまったので、、、すでに今回の企画メシレポートが存在しています!違った切り口からレポートしていますので、是非読んでみてください!
・企画メシ2018インターンの渡邊くんが書いてくれたレポートがこちら
・Careerhack編集部まっさんが書いてくれた記事がこちら
また、今回の表紙のイラストも、毎度お馴染みイラストレーターのヤギワタルさんです。今回は、弱い文脈、強い文脈のイメージをヤギさんがイラストにしてくれました。ヤギさんの作品はこちらから、ぜひ見てみてください