その「奇想」は天然か、人工かーー【特別展 生誕270年 長沢芦雪 ー奇想の旅、天才絵師の全貌ー】
日本画に描かれる犬。皆さんの頭にぱっと思いつく代表的な犬はどんな姿ですか。以前Twitterで、「どの犬がどの日本画家によって描かれたものか」を見分けるツイートがされていました。
今回は「セクシーポーズの芦雪わんこ」と「丸くてもちもち応挙わんこ」が見られる、大阪中之島美術館で開催された「特別展 生誕270年 長沢芦雪 ー奇想の旅、天才絵師の全貌ー」を紹介します。
※ツイートは下記togetterより引用しました。
「もちもち応挙」「セクシー芦雪」日本画の可愛すぎる犬の見分け方→更にかわいいイッヌがあつまる https://togetter.com/li/1571420
長沢芦雪ってだれ?
展覧会の紹介前に、今回のキーパーソンを解説します。
長沢芦雪(ながさわ ろせつ)は江戸時代の絵師で、円山応挙先生のお弟子さんでした。お弟子さんたちの中でも特に優れていたと言われていますが、その出自は謎に包まれています。淀藩の小役人の家に生まれ、養子に出されたとされていますが、正確なことは現在も明らかになっていません。
芦雪の「奇想」は「人工の奇想」?
芦雪は大胆な構図や筆遣いから、同時代の伊藤若冲(いとう・じゃくちゅう)や曽我蕭白(そが・しょうはく)と共に「奇想の画家」として、近年注目を集めています。
ですが、美術史学者の辻惟雄さんによると「天然の奇想」だった伊藤・曽我と比較すると、芦雪は「人工の奇想」だったのではといわれています。
芦雪は、伊藤・曽我のような内側から湧き上がる「奇想」たちとは違い、持ち前の技術やアイディアを活かして「人工的な奇想」を描き、当時の「奇想ブーム」に乗っかったのでは?というのが辻さんの解釈です。
後述しますが、芦雪はかなり茶目っ気がある(わるく言えば破天荒な)人物だったようで、人々を驚かせるために、あえて常人では描かないようなものを描いたのかもしれないと個人的には思いました。
天然か人工か、どちらにせよ、芦雪のトリッキーな作品は応挙先生に師事し、絵の基本をしっかり習得しているから成せるものかと感じます。
芦雪のここがすごい:師匠の技法を完全マスター&独自の世界観を確立
こちらは円山応挙が描いた《水呑虎図》。雄々しい虎が前屈みになり水を飲む瞬間を見事に切り取っています。
そしてこちらが、応挙先生に影響を受けて芦雪が描いたとされている《虎図襖》。
襖3枚にも渡る大作で、和歌山県の串本無量寺のために芦雪が33歳にして制作したものです。今にも襖から飛び出してきそうな勢いがあります。師の描く虎と同様、その骨格の描き方から精密さを感じられますが、芦雪の虎はどこかコミカルで漫画のような雰囲気です。
師匠の技法を踏襲しつつ、芦雪独自の世界観を展開しているように感じられます。
作品から感じられる”茶目っけさ”
芦雪作品から感じられるのは、その”茶目っけ”な性格。
《白象黒牛図屏風》という作品では、足を折り畳んだ大きな黒い牛の足元に、呑気にヒョイっと後ろ脚を投げ出した白い子犬が描かれています。牛の身じろぎで子犬が潰されないのか、こんな大きな牛の近くになんて間の抜けた顔の犬を描いたのか…見れば見るほど芦雪の茶目っけを感じます。
この作品には他にも、芦雪のエンターテイナーな人柄が感じられる逸話があります。
この絵は屏風に描かれているので、お披露目の際は閉じた状態から徐々に開いていくことになります。真っ先に牛の真っ黒なお尻が見えるので、「これは…何?」となり、次に犬が見えて「あ…犬がいる」となり、最後に全体像が分かったところで「犬と…牛だったのか!え、犬かわいい///」と見る人を驚かせていたようです。
「芦雪は食えないやつ」 お師匠:円山応挙とのおもしろエピソード
ここで会場の音声ガイドで聞いたおもしろエピソードをひとつ。
「大師匠本人が自らの絵を”赤ペン先生”する」。そんないたずらをけしかけた芦雪はとんだ悪ガキですね。実際3度も破門されているとか…。
展覧会見どころ
わんこ&動物パラダイス
わんこをはじめ、猿虎魚亀…とにかく動物いっぱいの展示会は見ているだけで癒されました。薄墨などを使って、さらっとしたタッチで描かれているものが多いので、それもまた動物たちのシンプルな可愛さが引き立ちます。
わたしも実家に犬がいるのですが、芦雪や応挙のわんこたちを見ると、「そうそう!犬ってこういう仕草する!」と犬飼いの血が騒ぎます。
※作品は撮影NGなのでパネルだけ。
芦雪も、芦雪以外も。
芦雪と同時代(18世紀)または1世代前に生まれた日本画家たちの作品も多く展示されていて、作品から画家同士の結びつきや相違点を感じることができました。
彼らは京都在住でしたが、それぞれの家も近かったようで、プライベートでも交流しながらお互いに刺激を受けて作品を作ったんだろうなと、背景を踏まえて作品を見ることでまた違った面白さがあります。
※全作品撮影NG(…でもそれが個人的にはありがたい)
最近の展覧会は撮影OKなところも多く、記録や思い出作りという面では非常に助かります。が、じっくり作品を見ようとしたら他人のカメラに映り込んでしまいそうで気を遣い…じゃあ、撮影するかとカメラを構えても、鑑賞者の邪魔になりそうだから手早く適当にシャッターを切ることになる…というどっちつかずな鑑賞体験になることがよくあり、正直辟易していました。(現状アートとインスタ映えは、切り離せない難しい問題だと思いますが…)
今回の展覧会は入り口のパネル以外、完全撮影NG。可愛い動物たちを写真に収められないのは残念でしたが、気の済むまで作品に近づいて細部までその筆跡を目に焼き付けることができたので、個人的には大変よかったです。
【散財注意】いろいろ買ってしまったグッズ
①長沢芦雪わんこ ポーチ
長沢芦雪わんこの手のひらサイズ布ポーチ。布一面にころころとわんこが転がっています。ポーチの中には和風の飴ちゃんが入ってました。
ポーチの裏側には芦雪さんの印章。【周りの枠=氷であり応挙】、【魚=芦雪】、つまり「師に囚われて自由に描けない芦雪自身」を表していたと言われていますが、後にこの枠が欠けた印章が見つかります。芦雪は応挙から独立する際に、決別を意味して印を割ったのではという説もあります。
②丸山応挙わんこ クッキー型
丸山応挙わんこのクッキー型。こういう型を買ったら子ども時代ぶりにお菓子作りをするようになるかもと購入しました。たくさん型抜きをしてパイ生地のサークルに入れて、「卓上ドッグラン」を作るのが年内の目標です。
③そのほか、気になった本も
お気に入りの絵画はインターネットでも見られますが、思い立った時すぐに作品と対面できるのが本のいいところ。
「かわいい こわい おもしろい 長沢芦雪」(岡田秀之)は今回の展覧会で見た作品のより詳しい話や、芦雪の生涯についても触れられています。今回の展覧会、ほとんど写真撮影がNGだったので、会場で見たわんこをもっとじっくり手元で見たい!と思い購入しました。
「日本美術 この一点への旅」(山下裕二)には、日本全国47都道府県の見るべき美術作品がラインナップされています。(美術館ではなく”美術作品”というのがポイント)わたしは旅行プランを組むときに、たとえスケジュールが厳しくても絶対に美術館を目的地に入れるタイプなので、今後活用していきたいと思いました。