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瞑想 精神の深みへ

我々ホモ・サピエンスのこころの歴史は、その発生から現在まで、分断と個別化の連続でした。

数万年前の「こころの萌芽」によって言語の働きが芽生えると、意識の原初的同一性が綻んで、顕在意識部分と潜在意識部分とに別れました。
その時言語と共に授かった流動的知性と神話的コミュニケーションのおかげで、ヒトのこころは創造性を育み、多人数で協力し合うことを覚えていきました。
常に自然と寄り添い合う暮らしの中、絶え間ない瞑想状態にあることで、共時的なこころを保つすべを身につけていたのでしょう。

ところが海を渡り、氷河を乗り越え、各大陸にくまなくコロニーを作り上げて、地上の王者となったヒトは、農耕を始めることで大地の持つ力を吸い上げ、牧畜によって動物たちの階層秩序を崩し、生態系を不可逆的に変化させていきます。
大河の治水によって農地に大量の淡水を取り入れ、都市文明を築くことでその傾向をさらに加速させた結果、ヒトの手による環境破壊は、せっかく作り上げたヒト自身の文明社会をも崩壊させていってしまいます。
約5700年前同時期に世界各地で勃興した古代文明システムは、こうして一つ一つ終焉の時を迎えていきました。

「こころの開花」は古代文明の崩壊後、やはり世界各地で共時的に現れました。
ヒトの活動による自然環境の悪化と、生態系への介入による疫病の蔓延、そして都市化による人口増大と限られたリソースの奪い合いで起きる戦争によって、ヒトのこころに不安や悲しみの感情が高まり、その絶望感や閉塞感に対応するために起きた意識構造の変化であると思われます。
大いなる世界との分断によってもたらされた葛藤や矛盾を、ヒトは理性と論理を使うことで解決しようと試みました。
哲学や論理学、そして様々な宗教体系を生み出し、思考を深めていった結果、ヒトのこころの奥底には、新たな形而上空間が形成されました。
この形而上空間はヒトの知的集合無意識として共有されていますが、それまでの神話的原理とは別の論理(=ロゴス)によって働き、ロゴスによってヒトのこころは、主体と客体、自分と世界、ヒトと動物、人間と自然をはっきりと区別するようになりました。
その結果ヒトは世界の中で特別な存在となり、環境破壊を正当化することには成功しましたが、こころの中の不安感は解消せず、むしろ増大させることとなりました。

科学革命が起きた17世紀以降には、理性と論理による形而上空間は巨大化し、地球全体を覆うまでの規模となりました。
ユーラシア大陸西端に位置するヨーロッパ半島で起こった科学革命とそれに続く産業革命は、たちまちのうちに世界中に広められ、その理性と論理による価値観は、21世紀の今日に至るまでに、遍く地球上に行き渡りました。
国家システムや通貨システム、物流ネットワークや情報ネットワークが社会的インフラとして張り廻らされ、科学的価値観という知のネットワークは、ヒトの精神世界を覆い尽くすクラウドとなって存在しています。
神話的コミュニケーションシステムが古代ローカル文明を作り上げたように、論理的メタフィジカルシステムは現代グローバル文明を創造した、と言えるでしょう。

その結果としてヒトは、地球環境を地質学的規模で変化させるまでの影響を及ぼすようになり、地球46億年の歴史の中に「人新世Anthropocene」という新しい時代のページを書き入れることになりました。
20世紀後半から見られる、地球環境指標の急激な上昇カーブ「グレート・アクセラレーション」は、6500万年前に恐竜たちを絶滅させた、巨大隕石衝突時の変化にも比肩されます。
地球が持っているとされる、環境恒常性を維持するフィードバックシステムは、すでにいくつかの指標において、引き返し不能な臨界点(プラネタリー・バウンダリー)を超えたといわれています。
古代文明崩壊時には、まだ地球に対するヒトの影響力は局所的だったため、そこから再度復興することができましたが、今われわれが直面している危機は全地球規模です。
今おかれている状況があと数十年、もしくはあと十数年続けば、ホモ・サピエンスという種は、他の動物植物たちを道連れとして、白亜紀の恐竜と同じように滅んでいくでしょう。

われわれに残されたわずかな望みは、急速に発達しているA Iシステムを実用化させて、それを形而上クラウドとつなげ、全面的に解決策を委ねることかもしれませんが、それを実行するための前提としては、人類全員が参加可能な採決システムを作ることが必要です。
最適な解を得られ、実現させるためのテクノロジーを持っていたとしても、それを決定できなくては何事も為し得ないのです。
時間的な余裕はわずか十数年しかなく、国家や政治体制、人種や性別、宗教やイデオロギーの違いがどうのと争っているヒマはわれわれにはありません。

翻って一人一人のこころに立ち返ってみれば、今の絶望的状況を招いたそもそもの根っこを突き止め、そこを基点として自分自身の在りようを変えていくことが必要です。
それは太古の昔から、ヒトが社会や形而上空間を大きくしていく過程で見失ってしまった、こころの奥底の領域に存在しています。
たどり着くためには、深い瞑想によってこころの奥をじっくりと覗き込み、今までそこに在るのがあたり前と思っていたモノやコトを、一つ一つ剥ぎ取っていかなくてはなりません。
そしてそこで手にした様々な意味や思考の断片を、今度は逆につなぎ変え、融合させて、新たな世界を生きるために必要な価値を創造していくことです。

次章ではこうした価値創造のための「融合=integration」をテーマにしていきますが、その前にもう一度だけ、瞑想の深みの最奥にある「死」について探っていきましょう。

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