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瞑想 ドリームタイム

アボリジナル・オーストラリアンは、「現生人類最古の冒険者」だと言われています。
彼らは「アフリカ以外では最も古くから存続している集団」であり、「現在住んでいる土地に最も長く住み続けているグループ」であると、アボリジナルのゲノム解析をした、コペンハーゲン大学Eske Willerslev氏率いる研究チームは結論付けました。
今から約7万年前に始まったヴュルム氷期の真っ只中、アボリジナルの祖先たちはアフリカ大陸を飛び出し、アジアの海岸線から海を越えて、オーストラリアに辿り着いたとされています。

ヴュルム氷期のピーク時には海水面が現在より80メートルほど低く、海岸線は現在の世界地図とは全く異なるラインを描いていました。
インドシナ半島とインドネシアの島々は地続きとなって「スンダランド」を作り、オーストラリアとニューギニア島も繋がって「サフルランド」を形成していましたが、それでもこの2つの陸地の間には100km以上隔たる海峡が南北に横たわっていたようです。
アフリカから地続きでスンダランドまで移動してきたアボリジナルの祖先たちは、東の水平線から立ち昇る朝陽の姿を眼前にし、その方角に向かってさらに進んで行こうと思い立ちました。
彼らは海岸に生えていた樹を切り倒してカヌーや筏を作って海に浮かべ、航海を試みて見事に海峡を横断してのけたのです。
オーストラリア北部のアボリジナル居住区域、アーネムランドの岩窟住居遺跡からは、6万5000年前の研磨石器など、渡来直後からの洗練された生活様式が見て取れる証拠が発掘されています。

アボリジナルの神話では、天空や大地、生命や人類が誕生した創造の時代を「ドリームタイム」と呼びます。
ここでいう「ドリーム」は単に夢ではなく、「旅をする・生活する・歌いだす」などという複合的な意味を持っているようです。
彼らの旅や生活の足跡はスピリットやエネルギーとして大地に残され、その足跡の事を「ソングライン」、足跡を残す行為を「ドリーミング」、そして過ごした時間を「ドリームタイム」と呼んでいます。
彼らは旅の道々で、出逢ったあらゆるものの名前を歌いあげながら、その土地の精霊たちと共に、夢見の世界を歩き続けたのです。

アボリジナルたちは21世紀の今も、ドリームタイムの「創造の時代」を共時的に生き続けています。
この世に歌いだされた「ドリーミング」の足跡の場は彼らの聖地として受け継がれ、聖地と聖地を結ぶ「ソングライン」は、現在でもオーストラリア全土を縦横に走っています。
文字文化を持たない彼らは、6万年以上に亘り口頭で伝承し続けて来た自然観や哲学、生活の知恵の中で、「ソングライン」ネットワークを張り巡らせ、離れたクラン(部族)たちとも精霊の旅を共有し合いながら、永遠の刻を暮らしているのです。
彼らは過去→現在→未来という通時的な時間感覚を持たず、また空間を距離として捉えることもしません。
主体と客体、自意識と無意識は共に「夢見」という連続体の一部に共存しており、覚醒と睡眠、生と死も、神羅万象の中で繰り返される永続性の中の一コマなのです。

「アフリカ単一起源説」を信じるとすれば、アボリジナルの先祖たちがアフリカを旅立ったのは、根源的意識から自意識と無意識が分離し、脳内構造が融合して流動的知性が誕生した「こころの萌芽」から、まだ間もない頃でした。
象徴機能と言語構造が生まれ、「精霊や神々のコトバ」を聞くことができるようになった彼らは、その声に突き動かされるように東へ東へと進みだしました。
進む先々で直面する環境の変化に合わせて、仲間たちの食料を確保しつつ、縫い針や釣り針、銛や石斧などの道具を次々に発明して、衣服や住居、船(筏)を創り出し、その過程で数々の神話を紡ぎ出していきました。
洞窟の中で生まれた原初の「こころ」の状態を純粋に保ち続けたまま、アフリカからオーストラリアまで1万km以上の距離を踏破し、たどり着いた土地土地で、それを「ドリームタイム」として何万年もの間定着させ得た彼らの旅は、まさに人類の奇跡と言えるのではないでしょうか。

知覚できる現実世界(ユティ)とドリームタイムを同時並行で生きられるアボリジナルたちは、その能力の大半を失ってしまった地球上のその他の地域のヒトビトにとっては驚嘆すべき、そして賛美すべき存在です。
農耕革命や都市革命を経て世界が文明化していく一方で、修験者や神秘家、宗教家たちは、失われつつある「こころの萌芽」感覚を取り戻そうと、必死に瞑想や修行を重ねてきました。
しかしそれはすでにアボリジナル的感覚が、彼らにとってナチュラルな状態ではなくなっていたということを意味します。

アボリジナルたちはその名の通り、「Ab-original=最初から・原初から」そのままのナチュラルな状態で、高峻な修道者の意識を実現するヒトビトです。
ヒトのあるべき姿と立ち戻るべき場所。
「Real people=真実の人々」とも呼ばれるアボリジナルは、文明の果ての「憂き世」を暮らす我々に、これからの時代でなすべき事、進むべき方向を指し示してくれる最後に残された存在なのです。

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